英語研究室

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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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15

He is as tall as any student in his class.は、本当に「彼はクラスのほかのどの生徒よりも背が高い」という意味なのでしょうか。

Q.15 同等比較を含む次の (1) は、最上級を含む次の (2) と同じ意味である、とある参考書に書いてあるのですが、なぜそうなるのでしょうか。
 
(1) He is as tall as any student in his class.
(2) He is the tallest student in his class.

(1) の同等比較を訳すと「ほかのだれと比べても同じくらい」になります。ある人の身長がクラスのほかのだれと比べても同じという状況は常識的には考えらません。
 
A.15 言われてみるともっともな疑問だと思います。 as ~ as any ... の構文は実際によく使われています。その意味を正確に把握しておかないと、相手が言うことを誤解したり、自分の意図に反する内容を相手に伝えてしまう恐れがあります。ここでこの構文の種明かしをしますから、きちんと理解しておきましょう。 まず、次の (3) を見てください。
 
(3) Nami has two Poohs.

(3) はどういう意味ですか。「ナミがプーさんの人形を2つもっている」という意味ですね。 (3) は、ナミがプーさんの人形を1つしかもっていない場合には 偽 ( ぎ ) ですが、3つもっている場合にはどうでしょうか。3つもっているということは、当然、2つもっているわけですから論理的には 真 ( しん ) です。しかし、3つもっている場合には、普通は3つもっていると言わなければなりません。そう言わなければ、情報を出し惜しみする(隠す)ことになり、会 話をする上での誠意が疑われます。会話は、一般的に、相手がほしがっている情報を過不足なく与えることが暗黙の前提になっていますから、会話をしていると きにある数量 n を述べると、相手は、 n より少なくないだけではなく、 n より多くもない、ちょうど n だと解釈します。このことを、「 (3) には3つ以上もっていないという会話の含意が伴う」といいます。

会話の含意は場合によっては棚上げすることができます。次の (4) (5) を見てください。

 
(4) Nami has at least two Poohs.
(5) Nami has two, if not more, Poohs.

上の (3) at least を付けたり( =(4) )、 if not more を付けたり( =(5) )することによって、 (3) の意味を「ナミがプーさんの人形を2つか それ以上もっている 」という意味に変えることができます。 at least if not more を付けることによって「3つ以上ではない、 2つが上限」という含みを取っ払うことを「3つ以上もっていない」という会話の含意を棚上げすると言います。

次に同等比較の as ~ as ... について考えてみましょう。次の (6) を見てください。

 
(6) Kazuya is as tall as Nami.

(6) は「和也はナミと同じくらい背が高い」という意味です。和也がナミより背が低いときに使うともちろん論理的に偽ですが、 (6) には、通例、和也がナミより背が高くないという会話の含意が伴います。だから、 (6) は和也がナミより背が高いときには使えません。しかし、「和也がナミより背が高くない」は会話の含意ですから棚上げすることができます。次の (7) (8) を見てください。
 
(7) Kazuya is at least as tall as Nami.
(8) Kazuya is as tall, if not taller, than Nami.

(7) (8) は、「和也がナミより背が高い」可能性を認め、「和也は、ナミと同じくらい背が高いか、ナミより背が高い」と言っています。言い換えると、 (7) (8) では、 (6) に含まれる「和也がナミより背が高くない」という会話の含意が棚上げされています。

 ここまで準備しておけば、問題の as ~ as any ... のミステリーの解決に進むことができます。 as ~ as any ... のミステリーを解くカギは、 as ~ as any ... at least ~~ if not more/if not taller などと同様に、会話の含意を棚上げする表現であるということです。 as ~ as any ... は「ほかのだれ(どれ)と比べても同じ」に「ほかのだれ(どれ)にもまさる」という可能性を付け加えることになります。 (1) に「ほかのだれ(どれ)にもまさる」という可能性を付け加えて訳すと、「彼はクラスのほかのどの生徒と比べても、背の高さが同じか、 それより高い 」です。したがって、 (1) は、彼がクラスで一番背が高ければ、当然、成立します。しかし、 (1) は、彼より背が高い人がいなければいいのですから、彼と同じ身長の人が何人かいてもかまいません。 (1) (2) が実質的に同じ意味になるのは、「彼がクラスで一番背が高い」です。彼と同じ身長の人が複数いる場合には、 (1) は使えても、 (2) は、通例、使えません。

ところで、 (1) が比較級を含む次の (9) と同じ意味であると考える人がいるようですが、これは誤解です。
 
(9) He is taller than any other student in his class.

(1) はクラスに彼と同じ身長の人が複数いても成り立ちますが、 (9) は彼と同じ身長の人がいないことを論理的に含意します。
もう1つの誤解を解いておきましょう。「 (1) は単に程度が高いと言っているだけである」と考える人もときどきいます。この誤解に従うと、 (1) は次の (10) とほぼ同じ意味ということになります。

 
(10) He is a very tall student.

しかし、 (1)(10) は同義ではありません。 (1) は、 トールキンの『指輪物語』に出てくる、背が低いことで有名なホビット族の人のクラスのことを言っているのかもしれません。やはり背が低いことで有名な、ア フリカ中部に住むピグミー族の人のクラスのことを言っているのかもしれません。言うまでもないことですが、比較級は、あるものと他のものを相対的に比較し ているだけで、絶対的に数量が多いと言っているわけではないのです。
 
大阪大学教授 岡田伸夫