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学習文法では
では,上の (1)-(10) の文型を考えてみましょう。まず最初に押さえておきたいことは,5文型で処理できる文は,単文,平叙文,能動文の3条件を満たす文に限られているということです。したがって,(1) の wh疑問文,(2) の受動文,(6) の複文は最初から除かれます。(6) の複文は伝統的には単文と見なされ,to be seriously ill を補語と分析してきましたが,厳密に言うと,She とイコールになるのは seriously ill であり,to be は含まれないはずです。単文の She is seriously ill. を参照してください。 さらに,単文でも5文型におさまらないものがあります。(4) では方向句(up into the clouds)の前置と主語・動詞倒置が起こっています。ついでですが,(4) のほかに Up went the kite into the clouds. という文もあります。文型は一定の機能を担う要素の生起順序も指定していますので,(4) はどの文型にもフィットさせることができません。 (5) は,文頭の there を主語ととると,a big apple tree の機能がわからなくなります。目的語でもありませんし,主語の there とイコールの補語でもありません。不可欠な要素なので修飾語でもありません。a big apple tree を主語ととると VS の語順になるのでやはり5文型のどれにも入らないことになります。 文頭の there の機能は現行の学習文法の5文型のコンセプトにのっとって考えるとよくわかりません。主語を同定する特徴の1つに「疑問文をつくるときに助動詞が飛び超えていくもの」というものがあります。たとえば,Mr. Imoto is president of the university. を疑問文にすると,Is Mr. Imoto president of the university? となりますが,助動詞の is が飛び超えた Mr. Imoto が主語です。この基準に従うと,(5) を疑問文にすると,Is there a big apple tree in the garden? になりますから,there が主語ということになります。しかし,主語を同定する特徴には「動詞と一致する(agree)」というものもあります。 動詞に ?s がつくかつかないかは主語の単数・複数に支配されます。(5) で is が使われているという事実と,(5) の a big apple tree を big apple trees にすると is は are に変わるという事実は,(5) では a big apple treeが主語であるということを示します。このようなやっかいな文は学習文法の5文型では処理しないというやり方は実は賢明なやり方なのです。 (10) には take care of という複合動詞が含まれているのでこれも少しやっかいです。take を V,care を O とする分析と,take care of を V,the child を O とする2つの分析が考えられます。その証拠に,(10) の受動文には Care was taken of the child by the baby-sitter. と The child was taken care of by the baby-sitter. の2つがあります。(10) も5文型で扱うことは避けるべきでしょう。
次に,(7) を見てみましょう。(7) は一見すると SV の第1文型のように見えます。しかし,文型を支えるコンセプトに戻って考えると,そのように分析することはできないということがわかります。(7) の is はあるもののある場所における存在を表す動詞で,場所を明示する必要があります。SV と分析するということは in the corner を修飾語と見なすということですが,in the corner は文を成立させるのに必要不可欠な要素なので,修飾語と考えることはできません。次の (34) はアウトです(もちろん What is in the corner, the TV set or the piano? に対する答えとしては OK です)。 (34) *The TV set is. 次の (35) でも,場所を表す between France, Germany, Italy, and Austria が不可欠です。 (35) Switzerland lies *(between France, Germany, Italy, and Austria). 文型は文を成立させるのに必要な要素を並べたものですが,(7) の in the corner や (34) の between France, Germany, Italy, and Austria の機能は目的語でも補語でもありません。では一体何でしょうか。 SV の後ろに現われる不可欠な要素は場所以外の意味を表すこともあります。たとえば次の (36) では at nine が不可欠ですが,これは時間を表します。 (36) The party will be *(at nine). また,次の (37) では必要不可欠な elegantly は様態を表します。 (37) John dresses *(elegantly). 次の (38), (39) では with bees,of 30 pupils が必要不可欠ですが,これらがどのような意味を表しているのかよくわかりません。 (38) The garden swarmed *(with bees). (39) Our class consists *(of 30 pupils). ここでは,目的語と補語以外の必要不可欠な要素を付加詞(adjunct, A)と呼び, SVA という新しい文型を設けることにしましょう。
次に (8) について考えてみましょう。(8) を「SVO+修飾語」の第1文型と分析することはできません。なぜかと言うと,(8) の on the table は(たとえ文脈から復元することができても)省くことができないので,修飾語と考えることができないからです。 (40) *John put the letter. それに対して,次の (41) の on the table は省略してもよいので修飾語であり,(41) は「SVO+修飾語」の第1文型ということになります。 (41) John piled books (on the table). 次の (42) の in the garage も,(8) の on the table 同様,省略できないので修飾語ではありません。 (42) She keeps her car *(in the garage). それに対して,次の (43) の in the garage は省略できるので修飾語です。 (43) She washes her car (in the garage). (8) と (41) の on the table はものの移動先,つまり到着点(goal)を表し,(42) と (43) の in the garage は場所を表します。SVO の後ろに必要不可欠な要素として出てくるものは到着点と場所だけではありません。たとえば次の (44) の 副詞 kindly は必要不可欠ですが,これは様態を表します。 (44) They treated her *(kindly). さらに,次の (45) b の of insects,(46) b の with jewels,(47) b の of his money も省略できないので修飾語ではありませんが,これらがどのような意味を表しているのかはっきりしません。 (45) a. She emptied the room (of insects). (45) b. She rid the room *(of insects). (46) a. The dwarves decorated the throne (with jewels). (46) b. The dwarves encrusted the throne *(with jewels). (47) a. He robbed her (of her money). (47) b. He deprived her *(of her money). ここでは,(8) の on the table,(42) の in the garage,(45) b の of insects,(46) b の with jewels,(47) b の of her money などを付加詞 A と呼び,SVOA という文型を新しく設定することにしましょう。
(9) は第何文型でしょうか。まず,(9) の into a frog が必要不可欠な要素であることを押さえておきましょう。 (48) *The witch turned the princess. into a frog は名詞句でも形容詞句でもありません。into は到着点を導く前置詞なので,into a frog は前置詞句であり,その働きは付加詞ではないかと考えられます。 しかし,(9) は次の (49) を含意します。 (49) The prince became a frog. そのことから判断すると,a frog は補語ではないかと考えられます。次の (50) に見られるように,turn の目的語を複数形 the princes 変えると a frog が frogs に変わるという事実もその証拠になります。 (50) The witch turned the princes into frogs. また,次の (51) と (52) を見てください。 (51) An MIT education made me a linguist. (52) An MIT education made me into a linguist. (51) と (52) は同じ意味ですが,(51) の補語の a linguist が (52) では into a linguist で表現されています。 ちょっと複雑ですが,おもしろい証拠もあります。「関係節の中の補語が関係代名詞になるときにはその先行詞も補語でなければならない」という制約があります。次の (53)-(54) を見てください。 (53) Ann isn't the woman (that) she used to be. (54) *The woman (that) she used to be wrote the diary. (55) *I kissed the woman (that) she used to be. (53)-(55) の関係代名詞 that は関係節の中で be の補語として働いています。that の先行詞の woman が主節の中で補語になっている (53) は OK ですが,主語や目的語になっている (54) と (55) はアウトです。では,David Carkeet, The Full Catastrophe の次の一節を見てください。 (56) "She was gorgeous. I couldn't help it." "Don't be so tough on yourself." "For a while I even made her into something she wasn't." 3行目の something she wasn't は 関係代名詞 that を補って something that she wasn't としてもかまいません。関係節の中の補語が関係代名詞になるときにはその先行詞も補語でなければならないので,that の先行詞の something は補語ということになります。 ここでは,(9) の into a frog が何か,(9) が第何文型かという問題は未解決のまま残しておきましょう。 ▼さて,今日の話はここまでです。次回は (10) の The joggers ran the pavement thin. の文型分析上の問題点,The teacher is fond of chocolate. のような形容詞を含む文の文型分析上の問題点,第5文型 SVOC の問題点について検討します。 京都教育大学 岡田伸夫 「英語の教え方研究会」より |