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1. Sunkist Orange 「自家製のジャムはたいていお店で買うジャムよりいい」という日本語を (1)の英語に直すとすると,ブランクにどのような表現を入れたらいいでしょうか。 (1) is usually better than the kinds you buy in the shops. 問題は「自家製のジャム」をどのように表現するかということですね。「自家製の」というのは「家でつくる」「家でつくられる」という意味ですから Jam which is made at home,あるいはもっと短くして Jam made at home ぐらいでしょうか。それから,もう1つ,複合語を使って表現することもできます。Homemade jam とすれば簡単でしょう(ハイフン(-)を入れて Home-made jam としても OK です)。同じmadeを使っていても,manmade, man-made は made by manという意味で,a manmade lake(人造湖)とか The lake is man-made.(その湖は人造です。)のように使われます。 「名詞+過去分詞」の実例はいっぱいあります。このパターンは,生産性 (productivity) が高く,動詞×前置詞×名詞の数だけある(ただし意味的に許されない結合や後で出てくる (17)-(22) のような不可能な結合は除かなければなりませんが)ので,どの辞書もすべての例をリストアップしようとはしません。無限にある文をリスト アップしようと考えないのと同じです。この過去分詞は受動態の意味をもちますが,名詞と過去分詞の関係は一様ではありません。名詞と過去分詞の関係は前置 詞を使ってパラフレーズするとよくわかります。homemade は made at home の意味ですから home は場所を表します。manmade は made by man の意味ですから man は動作主を表します。名詞+過去分詞の名詞は,場所や動作主のほかにいろいろな意味を表します。それは複合をパラフレーズしてみれば,出てくる前置詞でわ かります。 (2) また,her sun-tanned legs と a sunlit garden/scene/landscape には tanned by the sun と lit by the sun が対応しますが,次の (7) に見られる sun-kissed には kissed by the sun が対応します。 (7) ここでやっと今日の話のタイトルにたどり着きました。あの Sunkist Orange は sun-kissed orange だったのです。Sunkissed という綴りも一時検討したことがあったようですが,最終的には Sunkist という商標を採用しました。 「名詞+過去分詞」には前置詞がないので実際には多義表現も出てきます。たとえば,sun-ripened は ripened in the sun と ripened by the sun のどちらの意味でとること(使うこと)もできます(Roeper and Siegel 1978, p.242)。custom-builtも (8)a あるいは (8)b の意味で使われます。 (8) 「[ ]+過去分詞」の[ ]の中には,様態の副詞,道具,動作主,場所など,いろいろな意味役割を担う要素が入りますが,Roeper and Siegel (1978, pp.212, 240, 241)は,[ ]の中に入りうる要素が複数個ある場合には,そのうちのどれが入るかをコントロールする順位があると言います。たとえば,次の (9) に見られるように,様態を表す副詞と道具がある場合には,様態の副詞が先に[ ]の中に入ります。 (9) また,次の (10) に見られるように,様態を表す副詞と動作主がある場合には,様態の副詞が先に[ ]の中に入ります。 (10) 道具と動作主がある場合には,次の (11) に見られるように,道具が[ ]の中に入ります。 (11) 道具と場所がある場合には,次の (12) に見られるように,道具が[ ]の中に入ります。 (12) 動作主と場所がある場合には,次の (13) に見られるように,動作主が[ ]の中に入ります。 (13) 先頭のスロットに入るものには優先順位があって,次の (14) のスケールの左側のものから順番に入ると考えることができそうです。 (14)
仮に道具と動作主の2つがあるときには道具がスロットに入り,動作主と場所の2つがあれば動作主がスロットに入るが,道具と場所の2つがあるときには場所がスロットに入る,というような状況でもあれば,上の (14) のスケールを立てることはできません。「A と B があるときには A がスロットに入り,B と C があるときには B が入るとすれば,A と C があるときには A が入る」という関係は推移的(transitive)な関係と言いますが,ここではスロットに入る要素の間には推移的な優先順位が成立するということに留 意しておきたいと思います。 それともう1つ確認しておきたいことがあります。いろいろな要素が名詞のスロットに入っていくときには名詞の複数接尾辞 -s は脱落します。 (15) また,もとの前置詞も削除しなければなりません。 (16) 許されない「名詞+過去分詞」結合もあります。Roeper and Siegel (1978, p.242)は次の (17) の不可能な例をあげています。 (17) また,cleared of dishes の意味で dish-cleared と言うことはできません。 (18) *The baby crawled on the dish-cleared table. maid-cleared table とか dish-free table とかは OK です。並木(1985, p.99)は次の (19) の例の許容度が低いと指摘しています。 (19) また,cleared from the table の意味で table-cleared を使うこともできません。 (20) *Where are the table-cleared dishes? また,flavored with peaches の意味で peach-flavored を使うことはできますが,made from peaches の意味で peach-made を使うことはできません。 (21) *Have you tried this peach-made drink? また,transformed into a frog の意味で frog-transformed を使うこともできません。 (22) *Have you heard about a frog-transformed prince? ところで,次の (23) にあげるような「self+過去分詞」の例をよく見かけます。 (23) self-styled, self-appointed, self-employed, self-taught self-styledは,通例,けなして「自称の」という意味で使われます。a self-styled professor と言えば「自称教授」「教授と称する人」のことを言います。style はもともと「~を…と呼ぶ」という意味の形式ばった語で,He styles himself a professor. (彼は教授と称している) のように使いますが,ここから a self-styled professor のような表現が出てきたのでしょう。この self は名詞句ではなく,名詞であることに留意しておきましょう(cf. his former self)。 また,a self-addressed envelope というのは an envelope that is addressed to oneself(自分あての封筒)という意味であり(Quirk et al. 1985, p.1577),self は封筒を指しているのではありません。 上で,名詞と過去分詞の関係は一様ではないと言いましたが,過去分詞は受動態の意味を表します。「名詞+過去分詞」が文の補語として用いられるとき には主語が被動者(patient)あるいは主題(theme)として働き,「名詞+過去分詞」が名詞の前置修飾語として用いられるときにはその名詞が被 動者(patient)あるいは主題(theme)として働きます。 (24) したがって,「名詞+過去分詞」の名詞が過去分詞の表す出来事の被動者(patient)あるいは主題(theme)として働くことはありえません。calorie-controlled からは control calories を連想し,今言った原則の反例かと思われるかもしれませんが,It was controlled for calories. のような文があることを考えると,calorie-controlled は controlled for calories の意味だと考えられます。 「名詞+過去分詞」の名詞の位置には人称代名詞は現われません。 (25) *a him-driven car, *it-producing areas 代名詞は名前に反して,(Your plan is a good one. に見られるような one を除けば)名詞の代用表現ではなく,名詞句の代用表現です(岡田 2001, pp.70-71)。(25)の複合語がよくないのは,「名詞+過去分詞」の名詞の部分には名詞しか現われることができないからでしょう(竝木 1985, pp.99-100)。 ところで,固有名詞や物質名詞は単独で主語や動詞・前置詞の目的語として使われます。 (26) このことは,固有名詞や物質名詞が名詞であると同時に名詞句でもあるということを示しています。でも,California-grown とか snow-covered とかの複合語が OK だということは,これらの複合語では California や snow が名詞として扱われていると考えなければならないように思われます。 次の (27) の英語は2001年2月17日のアメリカ軍によるバグダッド近郊の妨空施設空爆を報じたニュースですが,U.S. and British-enforced では「名詞+過去分詞」の名詞のスロットに U.S. and British という等位構造が現われています。 (27) The attack ―the biggest near Baghdad in more than two years― targeted Iraqi radar and command and communication facilities north of the 33rd parallel, the upper boundary of a U.S. and British-enforced no-fly zone over southern Iraq. 次に,名詞+過去分詞の例をいくつか文の中で見てみましょう。 (28) This is the door to the outside hall and stairway. It was chain-locked according to the testimony. ―Reginald Rose, Twelve Angry Men 上の (30) のlinguistics-riddled は riddled with linguistics(言語学でいっぱいになった)という意味です。 2. ~Love is a many-splendored thing.~ 次に,今まで見てきたのとは別の接尾辞-edを見てみましょう。次の (32) は,William Holden と Jennifer Jones 主演の『慕情』 ―1995年の映画ですからちょっと古いのですが― の原題です。 (32) Love is a many-splendored thing. splendor の後ろの -ed は,形は sun-kissed などの -ed と同じですが,名詞に付加されるという点で今まで見てきた接尾辞 -ed とは別物です。この -ed は名詞 X に付加され,「X をもった」(having X) という意味の形容詞をつくります。もっとも,(32) を「愛はたくさんの輝きをもったものです。」みたいに平板に訳してしまったのでは,中英のハーフの女医と朝鮮戦争の従軍記者との美しくも切ないラブロマン スの輝きもくすんでしまいますけどね。 次に,「形容詞/名詞+名詞+-ed」の例をいくつかあげましょう。 (33) Beth came back empty-handed and tight-lipped. ―David Carkeet, The Full Catastrophe 「形容詞+名詞+-ed」のパターンに属する表現に a green-eyed monster があります。「緑色の目をもった怪物」というのは何のことでしょうか。『オセロー』(Othello)の第3幕 第3場にはイアーゴー(Iago)の (36) O, beware, my lord, of jealously; というせりふがあります。また,『ヴェニスの商人』(The Merchant of Venice)第3幕 第2場にはポーシャ(Portia)の (37) How all the other passions fleet to air. という傍白があります。嫉妬する人の目は緑色に変わるという俗説から嫉妬のことを緑色の目をもった怪物と呼んだことがあったようです。 このパターンの名詞の部分には数に関する情報が示されません。名詞は,通例,単数形で用いられます。 (38) having X の意味の -ed は単独の名詞に付加されることもあります。 (41) horned cattle (角のあるウシ), wheeled vehicles (車輪の付いた乗り物), a gabled house/roof (切り妻のある家/屋根), winged insects, the moneyed classes,The musician is very talented. 「名詞 X+-ed」は「X をもった」という意味ですが,次の (42) では「同じ大きさをもった」という意味が of equal size と equal-sized の2つの形で表現されています。 (42) Thus, a tiger was matched with a lion of equal size, a donkey with an equal-sized zebra, and so on. ―Maratsos and Abramovitch (1975, p.149) 次の (43) では,「時制をもった」という意味の tensed が「時制をもっていない」という意味の tenseless とコントラストされています。 (43) It is a wide spread and general phenomenon affecting both tensed and tenseless clause. ―Stillings (1977, p.164) 3. mice-infested (15)b で Indians-made をあげて,「名詞+過去分詞」の名詞のスロットに複数形は入らないと言いましたが,正確に言うと,規則変化の複数形は入らないということです。不規則複数 形は入りことがあります。ネズミがはびこっている家(a house infested with rats)を a rats-infested house とは言いません。定義上は1匹のネズミでは infestation(群れなして存在すること)にならないのですが,a rat-infested house と言います。それに対して,小ネズミがたくさん住んでいる家(a house infested with mice)は a mice-infested house と言うことができます。名詞のスロットに入ってくるものが単数形名詞か,不規則複数形か,規則複数形かによって許容度に差が出てきます。単数形名詞を含む (44)[i]類の複合語が一番よく,その次が不規則複数形を含む[ii]類の複合語で,一番よくないのが規則複数形を含む[iii]類の複合語です (Pinker 1999, p.182)。 (44) この違いはどこから出てくるのでしょうか。意味とか認知とかは関係ないですね。「mice-infested は OK だが,rats-infested はアウトである」ということが予測できるような意味的あるいは認知的理由は思いつかないでしょう。 Pinker (1999, p.180) は,なぜ mouse-infested とか rat-infested とか mice-infested がよくて,rats-infested がいけないかということを説明するために,次の (45) の語形成モデルを考えています。 (45)
mice という語は左端の箱の中に語根(root)としてたくわえられているので左から2番目の箱の複合語規則のインプットになります。そこで infested と結合されて mice-infested ができます。それに対して,rats は左端の箱に語根として記憶されていません。rats は3番目の箱の中の規則的な屈折規則によって rat からつくられ,そこから後戻りして2番目の箱の中の複合語規則のインプットになることはできません。だから rat-infested はあっても rats-infested はないのです(Pinker 1999, pp.180-181)。 4. mice-eater X-eater というよう複合語の X の位置には名詞が現われますが,この名詞のスロットには単数形あるいは不規則変化の複数形は現われますが,ご想像通り,規則変化の複数形は現われません。Gordon (1985) の3歳から5歳のこどもを使ったおもしろい実験を紹介しましょう。 まず,実験者がこどもに Cookie Monster の指人形を見せて,"Do you know who this is? ... It's the Cookie Monster. Do you know what he likes to eat? (Answer: Cookies.) Yes ― and do you know what else he likes to eat? ― He likes to eat all sorts of things ..." と言います。その後でいろいろなものを取り出して,こどもに "Would the Cookie Monster like to eat X?"(この X はものの名前です)と尋ねます。そしてその次にこどもに "What do you call someone who eats X?" と尋ねます。答えは "An X-eater." です。この実験では,こどもが rats-eater のような規則変化の複数形を含む複合語をつくることはほぼ皆無でした。それに対して,こどもは mice-eater のような不規則変化の複数形を含む複合語をつくりました。 不規則複数形を含む teethbrush, mice-trap, men-eater がよくないのは,toothbrush, mouse-trap, man-eater がこれらをブロックするからでしょう (Gordon 1985, p.76 fn.1)。 Clark and Clark (1979) のコンセプトを使えば,単数形 tooth を含む toothbrush などが,複数形 teeth を含む teethbrush などを pre-empt する(toothbrush などが teethbrush などに先んじて使われる)ということでしょうか。 §1では「名詞+過去分詞」の複合語を取り上げました。名詞のスロットに入ってくる要素の優先順位について考えたところでは well-constructed, well-built のような様態の副詞を含む -ed 形容詞に触れましたが,the long-awaited reply, the often-heard symphony のような時間の副詞や頻度の副詞を含む -ed 形容詞は扱いませんでした。また,次の (44) の例は「形容詞+過去分詞」型の複合語のように思われます(Roeper and Siegel 1978, p.243 fn.26)。 (44) foreign-educated, newfound, Russian-made, American-built, French-designed でも意味を考えてみると,foreign などは副詞的に働いているようにも考えられます。a foreign-educated statesman の foreign は,政治家が外国人だと言っているわけではなく,政治家が教育された方法とか場所を表しています。また,a newfound antique の new は骨董品が new だと言っているわけではなく,骨董品が最近見つかった(newly found)と言って時間を表しています。それに対して,たとえば次の (45) の Roman-ruled Britain の Roman には "Rome ruled Britain." の Rome の意味が透けて見えているように感じられます。「形容詞+過去分詞」型の複合語の問題はまた別の機会に取り上げたいと思います。 今日は,複合語,特に接尾辞-edを付加してつくる複合語について見てきましたが,もうかなり長くなりましたので,このへんで終わりにします。 引用文献 Clark, E. V. and H. H. Clark (1979) "When Nouns Surface as Verbs," Language 55.767-811. Gordon, P. (1986) "Lexical-Ordering in Lexical Development, " Cognition 21, 73-93. 竝木崇康 (1985)『語形成』大修館書店. 岡田伸夫 (2001)『英語教育と英文法の接点』美誠社. Pinker, Steven (1999) Words and Rules: The Ingredients of Language, Basic Books, New York. Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik (1985) A Comprehensive Grammar of the English Language, Longman, London. Roeper, Thomas and Muffy E. A. Siegel (1978) "A Lexical Transformation for Verbal Compounds," Linguistic Inquiry 9, 199-260. 辞典 例文出典 京都教育大学教授 岡田伸夫 「英語の教え方研究会 Newsletter 3月号」より |