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次に,経路を表す表現が経路の終点の場所を表す表現として使われることを見てみましょう(Lakoff 1987, pp.440-441; Jackendoff 1990, p.73)。これはかなり生産的なパターンですからしっかり押さえておきたいと思います。 次の(17)の文はどれもあるものがある経路を移動していくことを述べています。
たとえば,(18)aは「サムは丘を越えた向こう側に(on the other side of the hill)住んでいる」ということを,また,(18)cは「本屋は通りの向かいにある」ことを表します。
ただし,次の(19)bに見られるように,通過点を表す by は,経路の終点ではなく,通過点のそばにあることを表します(Lakoff 1987, p.441)。
また,次の(20)のacrossとoverは,場所(from one side to the other)を表しています(Thomson & Martinet 1986, p.99)。
次に,目標を表す at と着点を表す to を比較してみましょう。まず,次の(21)aと(21)bを見てください。
shout at somebody when you are angry と shout to somebody so that they can hear you という違いがありそうです(Murphy1994, p.262)。
次の(22)の2つの文を比べると,at の場合にはゴールあるいは的を敵意をもって見ていることがわかります(Greenbaum and Quirk 1990, p.199)。
さらに,次の(23)の2つの文も比べてください。
この例は,throw something at somebody/something in order to hit them と throw something to somebody for somebody to catch の違いを示しています(Murphy 1994, p.262; Close 1981, p.150)。ただし,She smiled (kindly) at the child. の場合には(21)aと(21)bと(21)cの at に見られる攻撃的な意味合いは感じられません(Greenbaum and Quirk 1990, p.199)。
次に,時間を表す前置詞の用法に移りましょう。at Christmas と on Christmas Day はそれぞれいつを指すのでしょうか。at Christmas はクリスマスを時間軸上の点と見なしていますので,実質的には during the Christmas holidays と同じような意味になります。それに対して on Christmas Day は on December the twenty-fifth というのと同じです。つまり,時間の長さで言うと,at Christmas のほうが on Christmas Day よりも長いということになります。
次の(24)の in にも注意が必要です。
(24)の1つの意味は「彼はそれをするのに3日間かかるだろう(He'll take three days to do it.)」という意味です。この意味ではその3日間がいつの3日間かには触れていません。 もう1つの意味は「彼は今から3日後にそれをするだろう (He'll do it three days from now.)」という意味です。後者の意味は He did it three days ago. の反対ですね(Greenbaum and Quirk 1990, p.194)。
空間を表す表現は時間を表す表現に転用されますが,次の(25)の into と(26)の for はおもしろいと思います(Langendoen 1970, pp.87-88)。
(25)bの「ジョンは車に乗って夜の中に入った」というのは「ジョンは夜になるまで運転を続けた」という意味です。
最後に,空間の起点や着点を表す前置詞の用法が拡張され,所有,所属,状態の変化や使役を表すことがあることに少し触れておきます。次の例を見てください。
これらの文をこのような拡張の舞台にあげて観察すればこれらの文に対する理解が深まるでしょう。 今日の話はこれでおしまいです。 REFERENCES Close, R. A. (1975) A Reference Grammar for Students of English, Longman, Harlow. Close, R. A. (1981) English as a Foreign Language: Its Constant Grammatical Problems, 3rd ed., George Allen & Unwin, London. Greenbaum, Sidney and Randolph Quirk (1990) A Student's Grammar of the English Language, Longman, Harlow. Gruber, Jeffrey S. (1976) Lexical Structures in Syntax and Semantics, North-Holland Publishing Company, Amsterdam. Jackendoff, Ray (1983) Semantics and Cognition, MIT Press, Cambridge, MA. Jackendoff, Ray (1990) Semantic Structures, MIT Press, Cambridge, MA. Jackendoff, Ray (1992) Languages of the Mind: Essays on Mental Representation, MIT Press, Cambridge, MA. Lakoff, George (1987) Women, Fire, and Dangerous Things: What Categories Reveal about the Mind, University of Chicago Press, Chicago. Langendoen, D. Terence (1970) Essentials of English Grammar, Holt, Rinehart and Winston, New York. Murphy, Raymond (1994) English Grammar in Use: A Self-Study Reference and Practice Book for Intermediate Students, 2nd ed., Cambridge University Press, Cambridge. 岡田伸夫 (2001) 『英語教育と英文法の接点』 美誠社. Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik (1985) A Comprehensive Grammar of the English Language, Longman, London. Thomson, A. J. and A. V. Martinet (1986) A Practical English Grammar, 4th ed., Oxford University Press, Oxford. 大阪大学言語文化部教授 岡田伸夫 「英語の教え方研究会 Newsletter 9月号(京都教育大学)」より |