英語研究室

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A Little Grammar Goes a Long Way

全35回
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英語文法を考察するコラム

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英語のbasic wordとnonbasic word ~語形成と句動詞と統語構文に見られる異なる振る舞い~(上)


'Curiouser and curiouser!' cried Alice (she was so much surprised, that for the moment she quite forgot how to speak good English); 'now I'm opening out like the largest telescope that ever was! Good-bye, feet!' (for when she looked down at her feet, they seemed to be almost out of sight, they were getting so far off). ―Lewis Carroll, Alice in Wonderland

1. はじめに
Steven Pinker (1989, p. 121)によると,60年代半ばの『タイム』誌のカバーストーリーが,ソウルの女王アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)を取り上げ,彼女が汗をたらして熱唱しているのを"perspiration streaming down her face"と描写したところ,ある読者がperspirationという英語に不満を感じ,"Aretha does not perspire. Aretha sweats."と投書したことがあったそうです。
同じ汗でも,アレサ・フランクリンの汗はラテン語由来のperspirationではなく,ゲルマン語由来のsweatでなければならないようです。

英語のネイティブ・スピーカーは,ゲルマン系の1音節語とラテン系の多音節語を(無意識に)峻別します。彼らには,ゲルマン系の1音節語がbasic,ラ テン系の多音節語がnonbasicに感じられるようです。ゲルマン系の1音節語が普段着に当たり,ラテン系の多音節語がよそ行きに当たるのかもしれませ ん。
ゲルマン系のbasic verbの使用頻度は高いので,馴染み深く,自然な印象を与えるようですが,ラテン系のnonbasic verbは使用頻度が低く,学術用語っぽいとか,形式ばったレジスターに属してとかの印象を与えるようです。
日本語の和語と漢語(を含む外来語)の関係と似たようなものでしょう。

今日は,英語のbasic wordとnonbasic wordの区別について考えてみましょう。(「基本語」と「非基本語」と言ってもいいのでしょうが,これらの日本語には何となくpedagogicalな意味合いが感じられるので,ここでは"basic word"と"nonbasic word"を使うことにします。)この区別は,レキシコンから語形成を経て統語構文に至るさまざまな階層のさまざまな場面で出てきます。

2. レキシコン
最初に,レキシコンの中をのぞいてみましょう。現代英語の不規則動詞はすべてゲルマン系です。180個あまりの不規則動詞はすべて1音節語か,それにゲルマン系の接頭辞がついた2音節語です。
 
(1) go/went, hit/hit, sing/sang, spend/spent;
  understand/understood, forget/forgot, beset/beset,
  mistake/mistook, withstand/withstood, upset/upset

3. 語形成
次に,語形成に見られるゲルマン系とラテン系の違いを見てみましょう。語幹(stem)にどのような接辞(affix)がつくかが語幹の出自に支配される ことがあります。たとえば,in-(変異形としてはim-, il-, ir-があります)とun-は,同じ否定の意味をもつ接頭辞ですが,in-がラテン系の語幹に付加されるのに対して,un-はゲルマン系の語幹に付加され ます。[*は当該の語あるいは文が非文法的であることを,また,?は容認されるかどうか疑わしいことをそれぞれ示します。]

 
(2) insatiable, illiterate, irreducible, improbable; *imborn,
  *illucky, *inhappy, *irrocky
 
(3) unborn, unlucky, unhappy, unkind; *unsatiable,
  *unliterate, *unreducible, *unprobable

また,形容詞を名詞に変える接尾辞-ityも好き嫌いがハッキリしていて,ラテン系の形容詞にしかつきません。
 
(4) ferocious/ferocity, probable/probability;
  purple/*purpility, heavy/*heavity.

接尾辞-ityの生産性(productivity)に関してはRandall (1980)のおもしろい実験があります。Randallは「ラテン系語幹+ity」から成る語と「非ラテン系語幹+ity」から成る語の容認可能性が異 なるかどうかを実験で示そうとしました。被験者は「ラテン系語幹+ity」のほうが「非ラテン系語幹+ity」より容認可能性が高いと判断しました。- ityが,ラテン系の語幹だけでなく,ギリシャ系の語幹にも付加される傾向が見られたので,Randallは,被験者は"classicality"に反 応するのではないかと推測しています。しかし,"classicality"というより,native/foreignの違いが関与している可能性もある ので,"classicality"かどうかはさらに検討してみなければならないでしょう。

接尾辞-ityに似た意味で使われる接尾辞に-hoodがあります。-hoodは名詞に付加され,別の名詞をつくりますが,ゲルマン系の名詞にしか付加されません。
 
(5) mother/motherhood, child/childhood;
  professor/*professorhood, student/*studenthood

接尾辞-nessはどちらのグループの語にもつきます。
 
(6) awareness, happiness, kindness; consciousness,
  nervousness, vastness

次に,比較級と最上級のつくり方を見てみましょう。本稿の冒頭のパッセージをもう一度見てください。これは『不思議の国のアリス』の第2章「涙の池」の冒 頭場面です。アリスは第1章の終わりで小さなケーキをたいらげ,背がにょきにょきと伸びてきました。アリスは驚きのあまり,more curiousという正しい形が使えなかったのです。比較級と最上級をつくる方法は二つあります。
一つは,屈折接尾辞-erと-estをつける総合的(synthetic)な方法,もう一つは,more, mostをつける分析的(analytic)な方法です。1音節形容詞には-er, -estが付加されます。

 
(7) nice/nicer/nicest,
  intelligent/*intelligenter/*intelligetest

それに対して,2音節以上の形容詞にはmore, mostをつけます。ただし,2音節語であっても語尾が-er, -le, -y, -ow, -someなどで終わる第1音節に強勢をもつ形容詞にはmore, mostをつけることもできますし,-er, -estをつけることもできます。
 
(8) cleverer/more clever; simpler/more simple;
  prettier/more pretty; narrower/more narrow;
  handsomer/more handsome

4. 句動詞
basic/nonbasicの違いは「動詞+不変化詞」からなる句動詞の成否にもかかわってきます。
このタイプの句動詞で使われる動詞はほとんどすべてゲルマン系の1音節語です。Whorf (1956, p.70)は,完成を意味する不変化詞upは1音節語及び第1音節に強勢をもつ多音節語と結合すると指摘しています。

 
(9) shake it up, jiggle it up, break it up;
  *vibrate it up, *destroy it up
 
(10) a. give up/out/away/in; *donate up/out/away/in
  b. make up/out/over; *create up/out/over

次の (11)-(14)のFraser (1974, p.19)の例も見てください。
 
(11) The general clouded/*confused up the issue.
(12) He struck/*attached up the picture on the wall.
(13) She will fix/*rectify up the error in the book.
(14) The man changed/*transformed over his heating
system to gas.

さらに,これらの動詞のほとんどすべてが意味上,次の五つのタイプのどれかに属しています(Dixon 1991, p.275)。
 
(15) MOTION (bring, carry, ...), REST (sit, stand),
  AFFECT (cut, kick, scrape), GIVE (give, get, have),
  MAKING (make, let)

来月号に続きます。
 
京都教育大学教授 岡田伸夫
「英語の教え方研究会 Newsletter
11月号」掲載予定