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(3)の文の発話者が現在形のwantsを 使っているのは,瑠璃子が以前に言った内容,つまり「アイスクリームが食べたい」という内容が,今でも真実であると考えているからです。どういう場合にそ う考えることができるのでしょうか。今,瑠璃子が遊びに来ていてあなたの部屋であなたと話しているとしましょう。暑いので二人とも何か冷たいものがほしく なりました。あなたが冷たいアイスコーヒーが飲みたいと言うと,瑠璃子はアイスクリームが食べたいと言いました。そこであなたが台所に行って冷蔵庫の扉を あけて,アイスコーヒーとアイスクリームを取り出し,トレーにのせました。そこへお母さんがやってきて,あなたに「何しているの。」と尋ねました。あなた は「何か冷たいものをいただこうと思って。私はアイスコーヒーがいいんだけど,瑠璃子はアイスクリームが食べたいんだって。」と答えました。この状況では 瑠璃子がアイスクリームを食べたいと思っている気持ちが変わっているとは考えられません。そういうときに現在形の(3)を使うのです。 では,(2)は どのようなときに使うのでしょうか。夕食後,お母さんがあなたに,「今日,瑠璃子さんが来ていたとき,あなた,冷蔵庫をあけて何かもって行ってあげたわ ね。何をもって行ってあげたの。」と尋ねたとしましょう。瑠璃子は何時間か前には確かにアイスクリームが食べたいと思った瞬間があり,実際にアイスクリー ムを食べました。しかし,今の時点で瑠璃子がアイスクリームを食べたがっているかどうかは,電話かメールで尋ねてみないとわかりません。過去形のwantedを含む(2)を使うのはそのような場面です。 (3)のwantsは現在形ですが,(2)のwantedは過去形です。(3)で現在形のwantsを使うのは,(3)の発話者が,her wanting some ice creamという内容が現時点でも成立していると考えるときです。(2)と(3)のどちらも正しいということを覚えておくことも大切ですが,もっと大切なのはどういう場合にどちらを使うかを知ることです。 大阪大学教授 岡田伸夫 2004年7月3日 |