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前置詞のforは「~のために(利益)」だけではなく,「~の代わりに(代理)」の意味を表しますから,質問者が言われるように,(2)に(4)の 代理の解釈があることは確かです。妹がケーキ屋さんで,ケーキを焼くことになっていたのですが,疲れているようだったので,あるいは忙しそうだったので, サリーが代わりにケーキを焼いてあげたのかもしれません。もっとも,私がサリーの代わりにケーキを焼くことはサリーの利益になりますから,今言った代理の 解釈は,利益の解釈ととることもできます。 質問者が読まれた本に書かれているように,(2)のforを利益の意味でとって,(3)のように解釈することはもちろん可能です。しかし,ここで大事なことは,(3)の日本語には複数の解釈があるということです。まず,最初に思いつくのは次の(5)の解釈でしょう。
でも,妹に対して利益を与えるケースは(5)だけではありません。たとえば次の(6)-(8)のようなケースも考えられます。
妹に利益を与えるケースは上の(6)-(8)以外にもいろいろ考えられます。このように(2)はいろいろな状況で使うことができるのです。 次に,上の(1)の文の意味を考えてみましょう。(1)は動詞bakeの後に目的語が2つ続いています。これは二重目的語の文であり,第4文型(S+V+O+O)の文です。(1)の文には(5)の意味しかありません。(2)の文と異なり,(1)を(6)-(8)のケースで用いることはできないのです。(3)の日本語を(5)の意味で使うこともありますが,(3)は(5)だけでなく,(6)-(8)のようなケースでも使いますので,(1)に(5)の意味しかないということは特に強調しておきたいと思います。念のために(1)の意味を表す英語を次の(9)にあげます。
(1)については次のことも重要です。(5)の日本語や(9)の英語からわかるように,(1)は「妹がケーキを食べた」ことまで表しているわけではありません。(1)が表しているのは,サリーがどのような意図でケーキを焼いたかということだけです。したがって,次の(10)a-cに見られるように,(1)の英語にサリーがケーキを食べなかったという状況を付け加えても何ら不自然ではありません。
最後に,二重目的語の文にfor句を付けた文と利益を表すfor句を含む文にfor句をもう1つ付けた文を見てみましょう。
上の(11)aと(11)bはどちらもOKです。 参考文献 Goldberg, Adele E. (1995) Constructions: A Construction Grammar Approach to Argument Structure, University of Chicago Press, Chicago. Goldsmith, John (1980) “Meaning and mechanism in grammar,” Harvard Studies in Syntax and Semantics 3, 423-449. White, Lydia (1987) “Children’s overgeneralizations of the English dative alternation,” Children’s Language 6, ed. by Keith E. Nelson and Ann van Kleeck, 261-287, Lawrence Erlbaum Associates, Hillsdale, NJ.大阪大学教授 岡田伸夫 2004年12月25日 |