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ステップ1: 次の(1)と(2)はOKだ。
ステップ2: (1)に対応する次の(3)がOKなのだから(2)に対応する次の(4)もOKのはずだ。
ステップ3: ところが,意外なことに上の(4)は非文法的だという。(4)ではなく,次の(5)が正しいという。
(5)がOKなのはわかるが,どうして(4)がアウトなのか? この推論は論理的には非の打ち所がありません。以下,どうして(4)が非文法的なのか考えて見ましょう。 まず,この現象の説明に登場する2人の主役,whiz 削除( whiz deletion )と -ing 化を紹介しましょう。最初は whiz 削除です。whiz 削除は,次の(6)-(9)に見られる関係節の中の関係代名詞とその直後のbe動詞を削除し,下の(10)-(13)の構造を作り出す操作です。
whiz 削除という名前はどこから出てきたのでしょうか?ご想像通りです。(7)や(8)の who is を削除するのですが、who is を自然な速さで発音すると whiz に聞こえますよね。 さて、もう1人の主役は ing 化です。ing 化は,直後にbe動詞以外の定形動詞(現在形と過去形の動詞のことです)を伴う関係代名詞を削除し,定形動詞を ing 形に変える操作です。ing 化は次の(14)の関係節構造に適用されると,(15)の構造を作り出します。
2人の主役が出そろいましたので,次にこの2人の主役の役割分担について考えてみましょう。上の(1)と(2)に ing 化が働いたらどうなるでしょうか。(1)は(3)に,(2)は(4)に変わります。しかし,(4)は非文法的なので,(2)が(4)に変わることは阻止しなければなりません。 そこで,whiz 削除と ing 化の適用方式について,次の(16)のように考えてみましょう。
上であげた(1)は,関係代名詞 which の直後に定形の一般動詞 lies が来ていますので,whiz 削除の適用を受ける構造ではありません。その場合には,whiz 削除の代わりに ing 化を適用することができます。適用したら(1)は(3)に変わります。 それに対して,上の(2)はどうでしょうか。関係代名詞 which とbe動詞の is がじかに隣接していますので,whiz 削除の適用を受ける構造です。もちろん適用しなくてもいいのですが,仮に適用すると上の(5)ができます。(5)は定形動詞を含んでいませんので ing 化を適用することはできません。これが(4)が出てこない理由です。 (16)の内容を理解していただけましたか?一旦(16)の内容を理解していただけたら、実際に覚えるのは(16)の最後の文だけで十分です。(16)の最後の文を次の(17)に書き出しましたが、これで(16)の内容を読み取ってください。
ところで、(4)がアウトであることを,「名詞の後置修飾語として being を使うことはできない」という一般化を立てて説明することはできません。この一般化そのものが成立しないからです。 そのことを証明するために,下に2つのタイプの文をあげます。 まず,第1のタイプの例として次の(18)を見てください。
(18)は間違いではありません。文法的には何の問題もありません。(18)は,その子どもが今,一時的に,騒いでいるという意味を表します。つまり,次の(19)と同義です。
(18)と(19)を日本語にすると,「その子どもがあそこで騒いでいる」になります (Close 1975, p.76; Murphy 1994, p.8) 。それに対して,次の(20)は「その子どもは根が騒がしい性格だ」という意味です。
(20)は,その子どもが騒いでいないときにも使うことができます。 第2のタイプの文は次の(21)に見られるような受け身の進行形の文です。
(21)の発話者は,その男が敵の兵士に拷問されているのを目撃して,そのことをどこかにケータイで連絡しているのかもしれません。 上の(18)と(21)を関係節を含む名詞句に変えると次の(22)と(23)ができます。
(22)と(23)は whiz 削除の適用を受ける構造をしています。適用を受けて who is が削除されると,それぞれ,次の(24)と(25)になります。
(24)と(25) には名詞の後置修飾語の being がちゃんと残っていますが,文法的です。 今回取り上げた中学生の疑問は論理的には当然至極の疑問です。高校生や大学生が,ことばに対する驚きの気持ちを忘れずに,ことばをつぶさに観察すると,こ のようなおもしろい疑問がいっぱい出てくるでしょう。また、そのような疑問を温めて続けているうちに、ひょっとしたらおもしろい発見ができるかもしれませ ん。 参考文献 Close, R. A. (1975) A Reference Grammar for Students of English, Longman, Harlow. Murphy, Raymond (1994) English Grammar in Use, 2nd ed., Cambridge University Press, Cambridge. 大阪大学教授 岡田伸夫 2005年1月26日 |