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しかし,質問者がお考えになったように,(1)で論文を書くのは彼女自身です。「have/get+目的語+過去分詞」には使役と受け身の意味のほかに,「自分で何かをする」という意味もあるのです (Alexander 1988, p.248; Eastwood 1994, p.140)。 ついでですが,Murphyは「get+目的語+過去分詞」は主として日常の話し言葉 (informal spoken English) で使われると述べています。 文学作品の中から「自分で何かをする」という意味の「get+目的語+過去分詞」の例を1つ下にあげます。(4)は,Reginald Roseの1956年の舞台劇Twelve Angry Menの一節です。12人の陪審員が一室に集まって,父親殺しの容疑で裁かれている19歳の少年が有罪か無罪か議論しています。
評決は陪審員自身が下すものです。第3陪審員のWe’ll never get this thing done.という発言は「ここで有罪か無罪かを決定することはできないだろう」という意味で使われています。だれが有罪か無罪かを決定するかというと,もちろんこの場にいる陪審員自身(We)であり,この場にいない第3者ではありません。 もう1例,今度はウェブサイトから取ってきましょう。PREGNANCY.ORGのGeneral Journalsの中に次の(5)の文章がありました (下線部筆者)。
(5)の中には「get+目的語+過去分詞」の用例が(数え方にもよりますが)7つあります。これらはいずれも主語のIが自分で行う行為を述べています。 次に問題になるのは,「自分で何かをする」という意味で用いられている「get+目的語+過去分詞」構文と「動詞+目的語」構文の意味が同じか違うか,違うとすればどう違うかということです。この点で有益な情報を与えてくれるのはLongman Advanced American Dictionary (2000) です。この辞書は,get sth fixed/done etc.にto repair something, do something etc., especially when this is difficult (「自分で何かをする,特に何かむずかしいことを仕上げる」) という説明を与えています(ただしsthはsomethingの略です)。この説明が正しいことは,Alexander (1988, p.248) が「get+目的語+過去分詞」にmanage to do something oneselfというパラフレーズを与えていること,Lakoff (1971) が,次の(5)aの「自分で皿を洗う」という読みに対して(5)bのパラフレーズを与えていることなどからもうかがい知ることができます。
ついでですが,Alexanderは(5)aでgotの代わりにhadを用いることはできないと述べていますが,次の(6)の下線部の文に見られるように,「have+目的語+過去分詞」を「自分で仕上げる」という意味で用いることは (少なくともアメリカ英語では) 珍しくありません。
「自分で何かを仕上げる」という意味の「have+目的語+過去分詞」の用法については,岡田(2001, pp.92-96) をご覧ください。 次に,「get+目的語+過去分詞」が,一方で「使役」と「自分で仕上げる」の意味を持ち,他方で受け身の意味をもつということについて考えてみましょう。おもしろいことに,「get+目的語+過去分詞」の(i) 使役の意味,(ii) 「自分で仕上げる」という意味と,(iii) 受け身の意味の違いは,第3文型 (S+V+O) で使われる普通の他動詞getの2つの意味の違いを反映しているのです。他動詞getにははっきり対立する2つの意味があります。1つは,主語が動作主,動作の開始者になる意味です。もう1つは,主語が外からの行為や働きかけの受容者になる意味です。次の(7)aは前者の,(7)bは後者の例です。
(7)aのgetはbuyあるいはobtainの意味です。(7)bのgetはreceiveとかbe givenの意味です。(7)aのgetは「こちらから何かを積極的にする」ということを表わしますから,go and getを使って次の(8)aのようにパラフレーズすることができますが,(7)bのgetは単に「受け取る」という意味ですから,go and getでパラフレーズすることはできません (Lakoff 1971)。(8)bが非文法的であることに注意。
「~される」という受け身の意味を表わすgetは,(7)bのgetと同じで,主語のJohnに自分の意志でコントロールすることができない何かが起こるということを表わします。それに対して,使役や「自分で仕上げる」の意味を表わすgetは,(7)aのgetと同じで,主語のJohnが自分から積極的にあることをするということを表わします。 以上,本稿では,主として,(i) 「get+目的語+過去分詞」には,使役と受け身のほかに,「自分で仕上げる」という意味があるということ,(ii) 使役と「自分で仕上げる」の2つの意味の違いはS+V+Oで用いられる他動詞getの2つの意味の違いに由来するということを述べてきました。 最後になりましたが,「get+目的語+過去分詞」と「have+目的語+過去分詞」が同じ3つの意味を共有するのはなぜでしょうか。このことは別に不思議なことではありません。getとhaveの意味を考えたら簡単に合点がいきます。あるものをget (手に入れる/受け取る) したら,当然それをhave (もっている) する状態が生じます。getとhaveのこの関係が,「get+目的語+過去分詞」と「have+目的語+過去分詞」の両方に同じ3つの意味があることの根拠になっているのです。 References Alexander, L.G. (1988) Longman English Grammar, Longman, London. Eastwood, John (1994) Oxford Guide to English Grammar, Oxford University Press,Oxford. Lakoff, Robin (1971) "Passive Resistance," CLS 7, 149-162. Longman Advanced American Dictionary (2000) Longman, Harlow. Murphy, Raymond (1994) English Grammar in Use: A Self-Study Reference and Practice Book for Intermediate Students, 2nd ed., Cambridge University Press, 岡田伸夫 (2001)『英語教育と英文法の接点』美誠社. 大阪大学教授 岡田伸夫 2005年5月28日 |