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進行形にも受動態にもbe動詞が含まれていますが,進行形と受動態の意味の中のどの部分がbe動詞が担っている意味なのでしょうか。そもそも進行形と受動態のbe動詞に意味があるのでしょうか。 まず,次の(5)と(6)を見てください。
(5)と(6)のeatingは前にbe動詞がなくても進行の意味を表すのですから,進行の意味は-ingの中にあるのではないかと思われます。 受動の意味も過去分詞が担っていると思われます。次の(7)と(8)では,過去分詞だけで受動の意味を表しています。
では,進行形と受動態のbe動詞の働きは何でしょうか。ある出来事・行為・状態が時間軸上のどこにあるかを示す働きであると考えることができるかもしれません。 たとえば(3)のisは「彼が部屋でハリー・ポッターを読む」という行為が現時点で起こっているということを表し,(4)のwasは「その手紙が彼の友人の1人に書かれる」という行為が過去に起こったということを表していると言ってもいいように思われます。 isは現在形,wasは過去形ですから,これらが時間を表していることは確かですが,isやwasには,出来事・行為・状態の時間軸上の位置を示す働きしかないのでしょうか。この問いに対する答えはこの稿の最後に出てきます。 進行形と受動態のbe動詞を離れて,(1)a, bと次の(9)a, bのbe動詞に目を向けてみましょう。
(1)a, bのbe動詞だけでなく,(9)a, bのbe動詞も主語がある場所に存在することを表しています。(9)aは,彼がライオンズクラブに「いる」,つまり,彼がライオンズクラブのメンバーであることを表し,(9)bは彼女が健康であるという状態の中に「いる」ことを表します。 (2)a-cで=の意味を表すとしたbe動詞は,(9)bのbe動詞同様,主語が,物理空間ではなく,抽象的な状態に「いる」ということを表していると考えられます。(2)aのisは,Clark KentがSupermanと同一人物であることを表現していますが,Clark KentがSupermanと背中合わせにぴったりくっついて1つになっているイメージでとらえてもいいでしょう。(2)bは夏目漱石の『我輩は猫である』の英訳名ですが,amは,私が,ネコという範疇の中にその1メンバーとして含まれていることを表しています。(2)cは,このコーヒーが,熱すぎるという状態の中にいることを表します。 ついでですが,(2)b のamに対応する日本語は「ある」です。この「ある」は ソファーの上にCDが「ある」(存在)の「ある」と同じ形です。また,am a catは日本語の「猫である」に対応しますが,「猫で」の「で」は「彼は京都で生まれ,大阪で育った」の「で」(場所)と同じ形です。 さて,ここまで来ると,進行形と受動態のbe動詞の意味はもうおわかりですね。(3)のisは,彼が,部屋でハリー・ポッターを読むという状態に「いる」ことを表し,(4)のwasは,その手紙が,彼の友人の1人に書かれるという状態に「いた」ことを表します。 最後にまとめておきましょう。be動詞の基本的な意味は存在です。もともと,あるものがある場所に存在することを表すのですが,この場所が,物理空間上の場所ではなく,抽象概念上の場所に変わると,(2)a-cや(3),(4)の文ができるのです。 大阪大学教授 岡田伸夫 |