Q.30 |
次の(1)にあげる英語はGraham Greeneの"I Spy"という短編小説の一節です。 |
(1) |
"Well," he said, "there's nothing to be done about it, and I may as well have my smokes." For a moment Charlie Stowe feared discovery, his father stared round the shop so thoroughly; he might have been seeing it for the first time. |
12歳のCharlie Stoweが,夜中に父親が経営している1階のタバコ 屋に忍び込んでタバコをくすね,店のカウンターの中に身を隠してタバコを吸おうとしました。が,突然,遠出しているはずの父親と見ず知らずの男たちが店に 入ってきました。父親が「どうしようもありませんな。タバコでも吸わせてもらいましょうか。」と男たちに言い,Charlieは見つかるのを恐れて身を縮めています。(1)の下線部の英語のfeared discoveryは「見つかるのを恐れた」という意味だと思いますが,名詞を受け身の意味で解釈することはよくあるのでしょうか。 |
A.30 |
おもしろい英語に気がつかれましたね。ご推察の通り,(1)の名詞discoveryはCharlie Stoweの側から見ると,「見つかる」という受け身の意味を表します。次の(2)をthat節で書き換えると(3)に,動名詞やto不定詞で書き換えると次の(4)aと(4)bになります。 |
(2) |
Charlie Stowe feared discovery. |
(3) |
Charlie Stowe feared that he might be discovered. |
(4) |
a. |
Charlie Stowe feared being discovered. |
|
b. |
Charlie Stowe feared to be discovered. |
名詞を受け身の意味で解釈することはよくあります。今,Graham Greeneの"I Spy"に目を通してみましたが,次の(5)の英語がありました。
(5) |
Surprise and awe kept him for a little while awake. It was as if a familiar photograph had stepped from the frame to reproach him with neglect. |
父親と男たちが店を出て行った後,Charlieは2階の自分の部屋のベッドに戻ったのですが,驚きと恐れのあまり,なかなか寝つけません。まるで見慣れた写真が額から出てきて,「ほったらかしにされている」と言ってCharlieを責めているかのようです。
(5)のneglectは(1)のdiscoveryと似ています。次の(6)のwith neglectを原因・理由を表わす前置詞forを使って書き換えると次の(7)になります。
(6) |
A familiar photograph reproached him with neglect.
|
(7) |
A familiar photograph reproached him for neglecting it. |
「Charlieがphotographをneglectする」ということは,photograph側からすると「Charlieにneglectされる」(A familiar photograph was neglected by Charlie.)ということです。(5)の名詞neglectは,(1)のdiscovery同様,受け身の意味をもっていると考えることができます。
次に(8)の例を見てみましょう。
(8) |
The women's clothes were not new, and their material was too humble ever to have warranted skillful cutting. |
(8)はDorothy Parkerの"Soldiers of the Republic"という短編小説の中の一節で,女性が粗末な衣服を着ているということを滑稽なタッチで表現しています。後半の文は,「彼女たちの衣服の服地はあまりにも粗末で,腕を振るって裁断するに値しない代物だった」と述べています。(8)の名詞cuttingは,人が服地を裁断することを言いますが,服地から言うと,「裁断される」という受け身の意味を表すことになります。
次の(9)も見てください。
(9) |
There was something very striking in the short, sharp sentences he used. They had a forcible ring. I had not given him more than a cursory glance, but now I looked at him with curiosity.
|
(9)はSomerset Maughamの"The Happy Man"という短編小説の一節です。(9)の下線部の英語について少し考えてみたいのですが,(9)を少し変形して次の(10)にして考えてみましょう。
(10) |
I gave him a cursory glance. |
(10)は,Iを主語にし,動詞glanceを使って表現すると,次の(11)になります。
(11) |
I glanced at him cursorily. |
(10)をhimを主語にして表現すると,次の(12)の受け身文ができます。
(12) |
He was glanced at cursorily. |
次の(13)も見てください。
(13) |
John gave Mary a scowl/a frown/a smile/a smirk. |
(13)は,普通,次の(14)の意味で解釈されます。
(14) |
John scowled/frowned/smiled/smirked at Mary. |
でも,次の(15)のような文脈に入れると,John gave Mary a permanent scowl.の部分は次の(16)の意味で解釈するのが自然です。
(15) |
John gave Mary a headache and a permanent scowl.
|
(16) |
John's behavior or appearance caused Mary to scowl.
(メアリーはジョンの行動あるいは外見を見て顔をしかめた。) |
さらに,Jackendoff (1990)は,次の(17)は,(i) 監督がダンサーを蹴った(The director kicked the dancer),(ii) 監督がダンサーが何かを蹴るのを許可した(The director permitted the dancer to kick),(iii) 監督がダンサーに何かを蹴って見せた(The director kicked for the dancer),という3通りの意味で解釈することができると言っています。
(17) |
The director gave the dancer a kick.
|
動作を表わす動詞Xからつくられる名詞を理解するときには,何がXするのか,何がXされるのかを正しくとらえることが必要です。
引用文献
Jackendoff, Ray S. (1990) Semantic Structures, MIT Press, Cambridge, MA.
大阪大学教授 岡田伸夫
2005年7月6日 |