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学習英文法がこのタイプの関係節構文を取り上げて解説することはありません。質問者が意味がよくわからないというのはもっともだと思います。しか し,生の英語の中ではこのタイプの関係節構文にもしばしばお目にかかります。以下,学習者が生の英語でこのタイプの関係節構文に出会ったときに困らないよ うに簡単に説明しますが,まず,最初に,文法用語の紹介と簡単な構文分析をしておきます。
thatが「関係代名詞」,dashing, even glamorous, princely adventurerがその「先行詞」です。that Henry had been in his youthが「関係節」で,関係代名詞thatが関係節の中で「補語」の働きをしています。(1)の関係代名詞thatのように,関係節中で補語の働きをしている関係代名詞をこれから「補語関係代名詞」と呼ぶことにしましょう。
(1)の関係節that Henry had been in his youthは,もとは次の(2)のような構造をしていたと考えることができます。
(2) |
Henry had been a dashing, even glamorous, princely adventurer in his youth. |
(2)のa dashing, even glamorous, princely adventurerの部分は先行詞と同じなので,代名詞のthatに変わります。普通の人称代名詞ならheになるところでしょうが,関係節の中なので関係代名詞thatになります。
次に,関係代名詞thatは関係節と先行詞をくっつける働きをしますので,先行詞と関係節の間に割って入ってきます。二つのものを接着剤でくっつけるときにも接着剤は二つのものの間に入りますね。そうしてできたのが(1)の下線部の英語です。
このプロセスを簡単に図示すると,次の(3)になります。
(3) |
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関係代名詞が関係節の中で補語の働きをしているケースは英語の関係節構文の中でも特殊で,関係代名詞が関係節の中で主語とか目的語とか前置詞の目的語とかの働きをしている関係節構文には見られない制限が課せられます。
関係代名詞が関係節の中で主語と目的語と前置詞の目的語の働きをしている場合には,関係代名詞の先行詞は主節の中で主語,目的語,前置詞の目的語,補語のどの働きもすることができます。次の(4)-(6)の文を見てください。ただし,文中の下線 _ は,関係代名詞が最初にあった位置を表わします。
(4) |
関係代名詞が関係節中で主語の場合
a. |
The long and winding road that _ leads to your door will never disappear.
[The long and winding roadは主語]
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b. |
I saw the man who _ taught us English.
[the manは目的語]
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c. |
She introduced me to a man who _ worked for a publishing company.
[a manは前置詞toの目的語]
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d. |
I can tell you with absolutely no doubt that she is the last person that _ would ever do anything dishonest--especially something like stealing from her place of employment.
(<http://www.lanl.gov/orgs/pa/News/director_answers21.html>)
[the last personは補語]
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(5) |
関係代名詞が関係節の中で目的語の場合
a. |
The people who we met _ at the party were very friendly.
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b. |
I like the dress that Ann is wearing _ .
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c. |
She introduced me to the man who she's dating _ .
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d. |
It was the worst film that I've ever seen _ .
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(6) |
関係代名詞が関係節の中で前置詞の目的語の場合
a. |
The people who we talked to _ at the party were very friendly.
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b. |
He brought me the map that I'd been looking for _ .
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c. |
She introduced me to the man who she's working with _ .
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d. |
It was the worst place that I'd ever been to _ .
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ところが,関係代名詞が関係節の中で補語の場合,つまり,補語関係代名詞の場合には,先行詞も主文中で補語でなければならないという制限があります。次の(7)を見てください。
(7) |
a. |
*The football coach that John was _ lost the game.
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b. |
*I saw a German teacher that Harry was _ .
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c. |
*Mary was listening to the interesting lecturer that John remained _ .
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d. |
John is not the doctor that his father was.
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(7)の四つの文の中で文法的に許されるのは(d)だけです。(d)では先行詞the doctorも主文中で補語の働きをしています。「補語関係代名詞の先行詞は補語でなければならない」という条件をこれからダブル補語条件と呼ぶことにしましょう。
最初の(1)の文に戻ります。奇妙なことに,(1)の補語関係代名詞thatの先行詞the dashing, even glamorous, princely adventurerは主文中で補語の働きをしていません。目的語の名詞hintに続く前置詞ofの目的語になっています。ここではダブル補語条件が満たされていないのです。
ダブル補語条件は捨てたほうがよいのでしょうか。いいえ,捨てるわけにはいきません。捨ててしまったら,(7)の(a),(b),(c)が非文法的で,(d)が文法的であるという区別をすることができなくなります。
では,(1)のthe dashing, even glamorous, princely adventurer that Henry had been in his youthはどのように分析したらよいのでしょうか。the dashing, even glamorous, princely adventurer that Henry had been in his youthは前置詞ofの目的語になっているので,全体としては名詞句ですが,その働きは文であると考えられます。(1)は次の(8)と同じ意味なのです。
(8) |
It conveys no hint that Henry had been (such) a dashing, even glamorous, princely adventurer in his youth.
(ヘンリーが,若い頃,勇み肌で,魅力的と言っていいほどの王子らしい(大)冒険者であったということを示す手がかりは何も与えてくれない。)
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Henry had been (such) a dashing, even glamorous, princely adventurer in his youthという意味をもつthe dashing, even glamorous, princely adventurer that Henry had been in his youthは,形は名詞句ですが,意味は平叙文です。このタイプの関係節構文を,普通の関係節構文と区別して,隠れ平叙文と呼ぶことにしましょう。(1)で補語関係代名詞に課せられるダブル補語条件が満たされていないにもかかわらず(1)が文法的なのは,the dashing, even glamorous, princely adventurer that Henry had been in his youthが隠れ平叙文だからです。
岡田 (2001)の第14章には隠れ平叙文のほか,隠れ疑問文,隠れ感嘆文に関する説明があります。
引用文献
岡田伸夫 (2001)『英語教育と英文法の接点』美誠社.
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