英語研究室

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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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Many large cities lack sewage treatment facilities and the funds with which to build them.のwith which to build themはどう理解したらいいのでしょうか。

Q.35 大学の英語の授業でDavid Peatyという方が書かれたマクミランランゲージハウス出版のEnvironmental Issuesというテキストを使いました。その中(p.2)に次の英語がありました。
 
(1) Sewage from nearby towns and villages is another major cause of river pollution. Many large cities lack sewage treatment facilities and the funds with which to build them.

私は今までにwith which to build themというような形に出会った覚えがないのですが、これは関係節の一種でしょうか。それとも不定詞の一種でしょうか。
 
A.35

(1)の英語は少し硬い文章ですので、日本語をつけておきます。

 
(2)

近隣の町や村から流れてくる下水も河川汚染の大きな原因だ。多くの大都市には下水処理施設もそれを建設する資金もない。


with which to build themのような形は格式ばったスタイルの英語や書きことばで使われます(Quirk et al. 1985, p.1266; Huddleston and Pullum 2002, p.1067)ので、質問者が今ま で経験してこられた話しことばや格式ばらないスタイルで書かれた英語の中では使われていなかったのかもしれません。質問者が大学で読まれたテキストは環境 問題をまじめに論じたテキストです。著者はこの形をこのテキストの内容にふさわしいと感じて使っていると思います。質問者の方がこのような論説文の中で今 後この形に出会う可能性は十分あると思います。

質問者の方はwith which to build themは関係節か不定詞かと尋ねておられますが、この質問の中にすでに答えがあります。whichfundsを指していることや、whichwithを連れて節の一番前に動いてきていることは、関係節の特徴ですが、関係節の中身を見ると、通常の関係節で使われる定形のthey can/should build themではなく、不定詞のto build themが使われています。with which to build themは「関係節の特徴をもった不定詞」あるいは「不定詞でできた関係節」ということになるでしょう。定形の関係節と不定詞との関係を見るために、(1)with which to build themを含んでいる文を(3a)とし、それと同じ意味を表す関係節を使った文と不定詞を使った文をそれぞれ(3b)(3c)とし、この三つを並べてみましょう。
 
(3) a. Many large cities lack sewage treatment facilities and the funds with which to build them.
  b. Many large cities lack sewage treatment facilities and the funds with which they can/should build them.
  c. Many large cities lack sewage treatment facilities and the funds to build them with.

Emonds (1976, pp.191-192)は上の(3a)のような文を「不定詞関係節」(infinitival relatives, infinitival relative clauses)と呼びました。Huddleston and Pullum (2002, pp.1067-1068)もその呼び方を踏襲しています。私もここでは不定詞関係節と呼ぶことにします。

私も質問者が使われた本に目を通してみました。すると、不定詞関係節の例がもう二つ見つかりました。
 
(4)

The primitive shanty towns around Nouakchott, the capital of Mauritania, are crowded with refugees: nomads no longer able to find grass with which to feed their skinny sheep, goats and camels, and farmers whose fields have turned to dust. (p.20)
(モーリタニアの首都、ヌアクショットの周囲にある原始的なみすぼらしい町は、もはややせた羊やヤギやラクダに与える草を見つけることができなくなった遊牧民や、畑が砂漠になってしまった農民などの難民でごった返している。)

 
(5)

The disposal of toxic waste used to be easy. It was put in big steel drums, transported by truck to isolated places and then dumped. When this method was finally banned, companies began to buy up old mines and other convenient sites in which to dump their waste. (p.52)
(以前は有毒な廃棄物の処理はむずかしくはなかった。大きな鋼鉄製のドラム缶に入れて、トラックで人里はなれたところに運び、そこでどさっと捨てればすん だ。しかし、この方法が最終的に禁止されると、企業は廃棄物を捨てるための古い鉱山やほかの便利な場所を買い占めだした。)


環境問題をまじめに論じているテキストですので、硬い文体で使われる不定詞関係節があっても違和感はないのだろうと思います。

Huddleston and Pullum (2002, pp.1067-1068)は不定詞関係節をwh型不定詞と非wh型不定詞の二つに分けています。次の(6)(7)をご覧ください。
 
(6) wh型不定詞関係節
a. I’m looking for an essay question with which to challenge the brighter students.
b. She is the ideal person in whom to confide.
c. The best place from which to set out on the journey is Aberdeen.
 
(7) 非wh型不定詞関係節
a. You’re not the first person to notice the mistake.
b. I’ve found something interesting (for you) to read.
c. She’s the ideal person (for you) to confide in.

Huddleston and Pullum (2002, p.1067)は、(6)(7)のような文法的な不定詞関係節と次の(8)のような非文法的な不定詞関係節の例をあげ、不定詞関係節の構造上の条件として次の(9)をあげています。
 
(8) a. *I’m looking for an essay question which to challenge the brighter students with.
  b. *She’s the ideal person whom to invite.
  c. *She’s the ideal person in whom for you to confide.
 
(9) a. 関係代名詞は直前に前置詞がなければならない。
  b. 不定詞の主語を表面に出してはならない。

不定詞の主語を表面に出すなら「前置詞+関係代名詞」を不定詞前の位置からもとの位置に戻さなければなりません。次の(10)では、前置詞がもとの動詞confideの後ろの位置に戻り、関係代名詞は省略され、不定詞の前の位置を不定詞の主語for youに明け渡していますのでOKです。
 
(10) She’s the ideal person for you to confide in.

どうして(8c)は非文法的なのでしょうか。意味的には何も問題ないはずです。というのは、(8c)と同じ意味の上の(10)は文法的だからです。(8c)が非文法的とされる原因はその形にあると推測されます。次の(11)(a)-(e)を比べて見てください。
 
(11) a. I found an usher from whom Mary can buy tickets.
  b. *I found an usher from whom for Mary to buy tickets.
  c. I found an usher from whom to buy tickets.
  d. I found an usher for Mary to buy tickets from.
  e. I found an usher to buy tickets from.

for+名詞句」が不定詞の意味上の主語になるのですが、forは前置詞ですから「for+名詞句」全体は前置詞句です。forが前置詞であることはforに続く名詞句が代名詞の場合に目的格になる(for her, *for she)ことからもわかります。「from whom」も前置詞句です。先行詞のusherの 後ろに不定詞関係節が続くのですが、不定詞の前には統語上前置詞句の位置が一つだけ用意されていて、その位置に前置詞句が一つだけ入ったり、何もはいらな かったりすることはよいが、前置詞句が二つはいることは許されないと考えたらどうでしょうか。そうすれば、二つの前置詞句が現れる(11b)は非文法的だが、前置詞句が一つだけ現れる(11c)(11d)や前置詞句が現れない(11e)はOKということが導き出せます。この考え方はEmonds (1976, p.192)の主張に沿ったものです。

不定詞関係節を読んだり書いたりする場合に、その正確な意味がわからないと困りますので、最後に意味を確認しておきましょう。大事な点は不定詞関係節がcanshouldで表される意味(法的意味modal meaning)をもつということです。不定詞関係節を法助動詞などを用いてパラフレーズしている例をいろいろな文献から取り出してみましょう。
 
(12) Close (1975, p.98)
a. You need someone to look after you. = ... someone who can look after you.
b. There are several people to be consulted. = ... several people that have to be consulted.
c. I’ve brought a book to read. = ... a book that I can read.
 
(13) Quirk et al. (1985, p.1266)
a. The man to help you is Mr Johnson. = The man who can help you ... .
b. The man (for you) to see is Mr Johnson. = The man who(m) you should see ... .
 
(14) Eastwood (1994, p.155)
a. I’ve got some letters to write. = ... some letters that I have to write.
b. Take something to read on the train. = ... something that you can read ... .
 
(15) Huddleston and Pullum (2002, p.1068)
Here’s something interesting for you to read. = Here’s something interesting that you
can/should read.

このように、不定詞関係節は、ある行為や出来事や状態が必要であること、義務であること、可能であることなどの意味を表します。これらの意味はいずれも未来にかかわる意味ですが、不定詞関係節がこのような未来志向の意味を表すということは、不定詞標識としてtoが使われていることからも納得がいきます。

不定詞の意味上の主語が先行詞自身である場合には、不定詞の部分が必要、義務、可能などの意味を表さない場合もある(Huddleston and Pullum 2002, p.1068)ので注意しましょう。
 
(16) They were the last guests to arrive. = ... the last guests who arrived. --Quirk et al. (1985, p.1269)
 
(17) Which was the first country to win the World Cup at rugby? = ... the first country which won the World Cup ... ? --Eastwood (1994, p.364)
 
(18) She was the first person to finish the job. = ... the first person who finished the job. --Huddleston and Pullum (2002, p.1068)

ただし、上の(12a)(12b)(13a)のように、不定詞の主語が先行詞である場合に必要、義務、可能などの意味を表すことももちろんあります。上の(16)-(18)の例で言ったことは、そのような意味を表さない場合もあるということだけです。

References

Close, R. A. (1975) A Reference Grammar for Students of English, Longman,
Harlow.
Eastwood, John (1994) Oxford Guide to English Grammar, Oxford University
Press, Oxford.
Emonds, Joseph E. (1976) A Transformational Approach to English Syntax: Root,
Structure-Preserving, and Local Transformation
s, Academic Press, New York.
Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum (2002) The Cambridge Grammar of
the English Language,
Cambridge University Press, Cambridge.
Peaty, David (1995) Environmental Issues, Student’s Book,
MACMILLANLANGUAGEHOUSE, Tokyo.
Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, Jan Svartvik (1985) A
Comprehensive Grammar of the English Language
, Longman, London.

 
大阪大学教授 岡田伸夫
2006年3月10日