英語研究室

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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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39

Her mother pushed her into marrying him.は第何文型ですか。

Q39

あるウェブサイト(<http://www.aslan.demon.co.uk/titanic.htm>)に映画のTitanicの批評があったので読んでみたのですが、その中にA feisty young lady, Rose is pushed by her mother into marrying a rich cad, Cal.(元気な若い女性ローズは母親によって金持ちの下劣な男カルと結婚することを強要される。)という英語がありました。この文で使われているpushの文型に興味をもちました。動詞pushを使った次の(1)の文は文法的だと思いますが、文型は第何文型になるのでしょうか。

(1) Her mother pushed her into marrying him.
 
A39

英語を読んでいると「push+人+into ~ing」の構文に時々出会います。しかし、この構文に出会う方はとっくの昔に文型を卒業している方でしょうから、この構文が第何文型に属するかが問題になることはまずないでしょう。しかし、改めて(1)が第何文型に属するかについて考え出すと少し厄介です。

 

私は、以下に述べるように、(1)のような文が第何文型に属するかを問うこ とは避けたほうがよいと思います。一番大きな理由は、伝統的な5文型による文分析のメカニズムにはもともとこの種の文を処理する力がそなわっていないとい うことです。5文型で処理するとすれば、扱うのは5文型で処理することができる基本的な文に限るのがよいと思います。もう一つの大きな理由は、すでに意味 のわかっている文についてそれが第何文型に属するかを問うことは英語学習上はほとんど意味がないということです。これが私の結論ですが、以下、この結論に 至る過程を説明したいと思います。

 

最初に、(1)の英語には特殊な点は何もないということを確認しておきたいと思います。次の(2)の文はあるウェブサイトから取ってきたものですが、下線部の英語は(1)と同じ構文の用例です。

 

(2)

Like Prince Charles or not, you must feel a sliver of guilt at the way the media and a voracious public pushed him into marrying Diana, with disastrous consequences for all concerned.
<http://icnewcastle.icnetwork.co.uk/0100news/deniserobertson/
tm_objectid=15367123&method=full&siteid=50081
&headline=jailing-the-wrong-people--name_page.html
>


では、説明に入ります。まず、動詞putの用法を並べて検討しましょう。次の諸例をご覧ください。
 
(3)

Her mother pushed some money into the pocket.
(彼女の母親はお金をポケットに押し込んだ。)

 
(4)

Her mother pushed her into the bedroom.
(彼女の母親は彼女を寝室に押し込んだ。)

 
(5) Her mother pushed her into marriage with him. 
(彼女の母親は彼女に彼と結婚することを強要した。)
 
(6) Her mother pushed her into marrying him. (=(1)) (同上)
 
(7) Her mother pushed her to marry him. (同上)

(3)(4)は「主語があるものをある場所に押し込む」という意味を表しますが、文型は「主語+動詞+目的語」の第3文型です。(3)into the pocket(4)into the bedroomはそれぞれお金と彼女の行き先(到着点)を表していますが、これらは文法的には修飾語の扱いを受け、文型分析の際には無視されます。

(7)は 「主語がある人にあることをすることを強いる」という意味を表しますが、学習文法がこの文を第何文型に入れるかは必ずしも明らかではありません。「主語+ 動詞+目的語+補語」の第5文型に入れることもありますし、5文型のどれに入るか明らかではないのでどの文型に入れるかを一切問題にしないで教えることもあります。

 

(7)より厄介なのは(5)(6)です。これらは意味的には(7)と同じなのですが、(5)marriageは名詞、(6)marryingは動名詞で、どちらも(7)の動詞marryの不定詞とは異なり、名詞的な性格をもっています。その点でこれらは(3)the pocket(4)the bedroomに近いと言えます。

(3)(4)はどちらもあるものをどこかに動かすという意味を表す移動構文ですが、(3)(4)から(7)までを並べて見てみると、より具体的な事象からより抽象的な事象に変化していく様子がうかがえます。同じことはput以外の動詞についても観察されます。

 

(ア) drive

(8) WESTMINSTER -- Police say a town man drunkenly drove his car into a pond and left the scene Saturday morning at 3 a.m., according to State Trooper Michael Benevento of the Athol barracks. 
<http://www.sentinelandenterprise.com/ci_4461938>
 
(9) As in the case of Ockham, circumstances drove Marchia into opposition to Pope John XXII, and as a result Marchia's later writings focus on more worldly affairs. 
<http://plato.stanford.edu/entries/francis-marchia/>
 
(10) The noises in my head have nearly driven me to suicide.
(suicideは自殺という意味の名詞)
 
(11) Meanwhile, the exemplarity in the poem is reflected in how Lucrece's rape has made her fiercely believe that her innermost self has been defiled and stolen, which subsequently drove her into committing suicide.
<http://www.highbeam.com/doc/1G1-20543261.html>
 
(12) The detective wondered what had driven Christine to phone her.―LDOCE4

 

(イ) force ((14)-(16)の出典はLDOCE4)

(13) Alonzo cited the construction of a fence between Tijuana and San Diego, known in Mexico as "the tortilla wall." It was completed in the 1990s and forced migrants into the sparsely populated and dangerous Arizona desert
<http://edition.cnn.com/2006/WORLD/americas/
10/06/border.fence.ap/index.html
>
 
(14) women who are forced into arranged marriages
 
(15) Bad health forced him into taking early retirement.
 
(16) I had to force myself to get up this morning.

現行の中学校学習指導要領においては「主語+動詞+目的語+補語」の文型は次の場合を教えるとしています。
 
(17) 主語+動詞+目的語+名詞/形容詞

また、その他の文型のところで次の場合を教えるとしています。

(18) 主語+tell,wantなど+目的語+to不定詞

 

高等学校学習指導要領においては、「主語+動詞+目的語+補語」の文型のうち、補語が現在分詞、過去分詞及び原形不定詞である場合を加えて教えるとしています。しかし、これらの学習指導要領の規定からは(1)(2)(6)(=(1))や(5)の文が第5文型に入るかどうかが見えてきません。

 

私は(1)の英語の教えるにあたって大事なことは(1)の 英語が第何文型に属するかを問題にすることではないと思います。大事なのは、「あるもの/ひとをあるところに移動させる」という意味(物理空間上の移動) が比喩的に転用されて、「あるもの/ひとにあることをさせる」という使役の意味になるということを理解することだと思います。

このことを理解していれば、たとえば次の文に出会っても自然に理解することができるでしょう。

 

(19) One of Japan's top-selling pop stars, 19-year-old Hikaru Utada, announced Sept. 6 she had married, sparking news flashes on national television and sending her legions of male fans into mourning (彼女の大勢の男性ファンを悲しませた).―(Reuters) "From breaking records to breaking hearts"『週刊ST』Friday 20, September, 2002.

意味的には「主語+動詞+補語」の第2文型に近くても形式的には動詞に続く部分を補語と呼んでよいかどうかがはっきりしない英語もあります。

 

次の(20)の下線部の英語を見てください。

(20) After reading his book, Noguchi went from "a high school dropout" to a boy with a dream.―Masachika Ishida et al., Reading in Focus: World Affairs Today

この英語は「野口さんは彼の本を読んでから『高校の落第者』から夢をもった少年に変わりました」という意味です。前置詞fromの目的語のa high school dropoutと前置詞toの目的語のa boy with a dreamはいずれも主語の野口さんの属性を表す表現で、意味だけを考えると補語(主格補語)でしょう。

 

しかし、中学校学習指導要領は、「主語+動詞+補語」の文型のうち、(ア)動詞がbe動詞で補語が名詞、代名詞、形容詞の場合と(イ)動詞がbe動詞以外の動詞で補語が名詞、形容詞の場合を教えるとしています。また、高等学校学習指導要領は「『主語+動詞+補語』の文型のうち、(ア)動詞がbe動詞以外の動詞で補語が現在分詞及び過去分詞である場合、(イ)動詞がbe動詞で補語がwhatなど及びthatで始まる節、並びにwhetherで始まる節である場合を教えるとしています。これらの学習指導要領が基づいている伝統的な学習文法が(20)fromintoで始まる前置詞句を補語と見なすことはないでしょう。

大事なことは(20)が第何文型に属するかを恣意的に決めることではありません。

 

次の(21)の文を見てください。

(21) Noguchi went from Tokyo to London.

この文は「野口さんが東京(出発点)からロンドン(到着点)に行った」ということを表します。大事なことは、(21)の文をベースにして「野口さんが、最初はa high school dropout (出発点)だったが、ある人の本に出会ったことが契機になり、a boy with a dream (到着点)に変身した」という(20)の意味を読み取ることです。言い換えると、物理空間上の移動が抽象的な状態の変化に転用されるということを理解していればいいのです。

 

(20)の文には特殊な点は何もありません。同じ構文の例をもう一つ見ておきましょう。

(22) "He changed from a very dejected, downtrodden man into a fighting tiger," Edward Kimmel said.―BALTIMORE SUN, “Pearl Harbor blame hurts admiral's kin,” The Boston Sunday Globe, Vol.252, No.160, December 7, 1997.

(22)の下線部の英語は「彼は意気消沈した落ちぶれた男だったが戦うトラ(勇者)に変身した」という意味です。

最後に、意味的には第5文型が表す意味と同じ意味を表すが、第5文型に入れてよいかどうかはっきりしない文をもう1例あげます。

 

下の(23)の文を見てください。

(23) The curse he has put upon the criminal returns. Reduced in a day from king to beggar, he leaves the city, to wander through Greece an exile and an outcast.―Douglas Lummis, “The Furies,”『週刊ST』October 14, 2005.

(23)の下線部は過去分詞reducedを使った分詞構文です。ここだけを取り出して能動文に変えて考察してみましょう。ただし、能動文にした場合の主語が何であるかよくわからないので、その点は不問にします。

 

(24) X reduces him in a day from king to beggar. 
(Xが彼を一日にして王から乞食に変える。)

(24)kingbeggarは、意味上は目的語のhimの属性を述べている表現で、文法用語を使って言えば補語(目的格補語)です。

しかし、上で(1)の文について述べたように、伝統的な学習文法が前置詞句が補語になるケースを認めるかどうかは不明です。

(24)を教える場合に大事なことは、それが第何文型に属するかを恣意的に決めることではなく、「あるもの/人を物理空間上、ある場所から別の場所に移動させる」ことが、「あるもの/人をある状態から別の状態に変える」ことに比喩的に転用されるということを知ることです。


大阪大学教授 岡田伸夫
2006年10月14日