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英文法Q&A

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45

Yesterday, Obama's campaign posted his tax returns on its Web site, a move designed to pressure Clinton to release her financial information.という文のa move以下はどのような働きをしているのですか。

Q45

2008年3月26日のThe Baltimore Sunのウェブサイトに掲載された米国大統領選挙に関するある記事の中で次の(1)の英語を見つけました。

(1) Yesterday, Obama's campaign posted his tax returns on its Web site, a move designed to pressure Clinton to release her financial information.

この文ではYesterday, Obama's campaign posted his tax returns on its Web siteという文の後ろにa move designed to pressure Clinton to release her financial informationという名詞句が続いています。学習文法の中でこのような構文について学んだ記憶がないのですが、a move以下はどのような働きをしているのですか。

 
A45

確かに手元にある数点の学習英文法書には上の(1)のような構文に関する解説はありません。参考になるのは記述文法書であるQuirk et al. (1985: 1321)の同格(apposition)に関する次の説明です。

 
(2)

The first appositive may be part of the clause:
If the government had known what was going to happen, it would not have increased credit facilities - a move that accelerated inflation.


(2)の例文ではit ... have increased credit facilitiesa move that accelerated inflationがイタリック体で表現されていますので、Quirk et al.がこの二つを同格表現であると考えていることがわかります。(2)の例文を訳すと次の(3)になるでしょう。
 

(3) もし政府がどういうことになるか予見できていれば、信用供与を増やすことはなかっただろう。というのは、そのこと(=政府が信用供与を増やすこと)はインフレ加速策だからである。


ご質問いただいた(1)の文では、a move designed to pressure Clinton to release her financial informationが、先行する文全体の内容に対する一種の述語として働いていると思われます。(1)を訳すと次の(4)になるでしょう。
 

(4)

昨日、オバマ陣営はウェブサイトに納税申告書を公開したが、それはクリントンに彼女の財政情報(納税申告書)を公開するように圧力をかけることを意図した動きである。


Quirk et al.(2)の例と質問者の(1)の例との違いは、前者では、文末の名詞句(a move that accelerated inflation)が前文の一部の内容に説明を加えているのに対して、後者では、文末の名詞句(a move designed to pressure Clinton to release her financial information)が前文の全体の内容に説明を加えているということです。
 

次に、同格について少し説明しておきましょう。文法では、普通、同格の説明に名詞句を使います。みなさんも次の(5)(6)の下線部に見られる同格表現には馴染みがあるだろうと思います。
 

(5)

Robinson, the leader of the Democratic group on the committee, refused to answer questions.―Quirk et al. (1985: 1313)

 
(6)

Mr Watkins, a neighbour of mine, never misses the opportunity to tell me the latest news.―Alexander (1988: 23)


同格表現には説明する(defining)側と説明される(defined)側の二つがあります。上の(5)では、Robinsonが説明される側で、the leader of the Democratic group on the committeeが説明する側です。また、(6)では、Mr Watkinsが説明される側で、a neighbour of mineが説明する側です。(5)(6)では、説明する側の同格表現は、その前にコンマが置かれていますので、非制限的(nonrestrictive)な働きをしています。したがって、上の(5)(6)の説明する側の同格表現は非制限用法の関係代名詞whoを使って次の(7)(8)のように表現することができます。
 

(7)

Robinson, who is the leader of the Democratic group on the committee, refused to answer questions.

 
(8)

Mr Watkins, who is a neighbour of mine, never misses the opportunity to tell me the latest news.


ご質問いただいた(1)の例に同様の分析を適用してみましょう。(1)の例では、Yesterday, Obama's campaign posted his tax returns on its Web siteが説明される側の同格表現、a move designed to pressure Clinton to release her financial informationが説明する側の同格表現となります。a move designed to pressure Clinton to release her financial informationは、その前にコンマがあるので、非制限的な働きをしています。したがって、(1)の文は、前文を先行詞とする関係代名詞whichを使って次の(9)のように書き換えることができます。
 

(9)

Yesterday, Obama's campaign posted his tax returns on its Web site, which was a move designed to pressure Clinton to release her financial information.
また、等位接続詞andと指示代名詞のthatthisを使って次の(10)のように書き換えることもできます。

 
(10)

Yesterday, Obama's campaign posted his tax returns on its Web site, and that/this was a move designed to pressure Clinton to release her financial information.


このように見てくると、(1)の文は一種の同格構文と考えてよいと思われますが、(1)の文は(9)の関係節構文のwhich wasが省略されてできた文と見なすこともできます。後者の考え方は次のような事実によって支持されます。一般的に、「関係代名詞+be動詞」の構造は省略してもかまいません。次の(11)(12)abの例を比べてください。
 

(11)
a. The man who is entering the room right now is a spy.
b. The man entering the room right now is a spy.
 
(12)
a. John just met a girl who was enthusiastic about Sinatra.
b. John just met a girl enthusiastic about Sinatra.


変形文法(transformational grammar)では、(11)(12)awhiz削除(whiz deletion)と呼ばれる変形規則を適用して、(11)(12)bを派生するという方式が提案されたこともあります(Langendoen 1970: 145-147)。whiz削除のwhizというのは、削除される一つのパターンであるwho isを短縮して作った語です。(11)(12)で取り上げたwhiz削除は「制限的用法の関係代名詞+be動詞」の削除でしたが、この規則は「非制限的用法の関係代名詞+be動詞」の連鎖にも適用されます。次の(13)(14)の例を見てください(Quirk et al. 1985: 1270)。
 

(13)
a. The apple tree, which was swaying gently in the breeze, was a reminder of the ole times.
b. The apple tree, swaying gently in the breeze, was a reminder of the ole times.
 
(14)
a. The substance, which was discovered almost by accident, has revolutionized medicine.
b. The substance, discovered almost by accident, has revolutionized medicine.


同格という見方とwhiz削除の見方とどちらがよいかはどちらが学習者によりわかりやすいかという視点に立って選ぶとよいと思います。私は「同格」という日本語の用語にはほんの少しですが違和感があります。というのは、同格表現である二つの表現は全く同じ格とは言えないからです。(7)-(10)の同格表現のパラフレーズからわかるように、説明する側の同格表現は、説明される側の同格表現についての陳述です。John and Mary got married last month.の文に見られるJohnMaryのように文中で純粋に同じ資格で並べられているわけではありません。もっとも、「John and Maryは『等位』接続であり、『同格』ではない。同格というのは、意味的には上の(7)-(10)に見られるような関係を言う」という風に両者を区別して考えることに支障がなければ同格と呼んでもかまわないだろうと思います。

上の(1)のように、文に名詞句が続き、その名詞句が前の文を説明していると考えられる構文はジャーナリスティックな文章でよく使われます。次の(15)(16)に類例をあげましょう。
 

(15) The United States now finds itself with no strong ally in Pakistan besides Musharraf, and no good options remaining for promoting democratic change -- a situation for which the Bush administration is partly to blame.
(米国は今やムシャラフ以外にはパキスタンに強い味方をもたず、民主的な変化を促進するためのいい選択詞ももう残っていないという状況に直面しているが、それはブッシュ政権も部分的に責任を負うべき状況である。)
<http://www.latimes.com/news/opinion/la-ed-bhutto29dec29,0,263348.story?coll=la-home-commentary>
 
(16) In Wisconsin, McCain made progress in wooing conservatives skeptical of his record, splitting them evenly with Huckabee, according to preliminary exit poll results. McCain also won four in 10 voters who describe themselves as very conservative, his best showing so far.
(ウィスコンシン州では、マケインががんばって彼の経歴を胡散臭く思っていた保守層を引き寄せた。出口調査ではマケインは保守派の票をハッカビーと等しく わけあった。マケインはまた筋金入りの保守派であることを自認する投票者10人につき、4人の票を得たが、それは彼の今までの戦果で最高だった。)
<http://abcnews.go.com/Politics/Vote2008/story?id=4311669>


説明される側の同格表現が先行する文全体ではなく、その一部である例(Quark et al.(2)の例)も次の(17)(18)にあげておきましょう。
 

(17) In a sense, a win for Obama would be a mirror image of McCain's primary victory in 2000, when he derailed GOP front-runner George W. Bush, largely because New Hampshire independents flocked to his side. Bush went on to win the nomination by rallying party regulars in later primaries -- a strategy Clinton no doubt would pursue.
(ある意味で、オバマの勝利は2000年の予備選におけるマケインの勝利の鏡像だろう。あのときは、ニューハンプシャーの無党派層がマケインの側についた ことが大きく響いて、共和党の先頭走者のジョージ・W・ブッシュは出鼻をくじかれることになった。ブッシュは次に(ニューハンプシャー州予備選挙)以後の 予備選挙で忠実な党員を再結集することにより結局は指名を獲得したが、以後の予備選挙で忠実な党員を再結集することは必ずクリントンも用いる策であろ う。)
<http://www.latimes.com/news/politics/la-na-independents30dec30,1,7800241.story?coll=la-politics-campaign&ctrack=1&cset=true>
 
(18) The Democratic National Committee stripped the two states of their delegates as a penalty for leapfrogging ahead of other states in the election calendar, a violation of party rules.
(民主党全国委員会は予備選挙を選挙カレンダーの上で他の州を馬跳びして前に置いたことに対するペナルティーとしてその二州から代議員を剥奪したが、予備 選挙を選挙カレンダーの上で他の州を馬跳びして前に置くことは党規違反だった。)
<http://www.latimes.com/news/nationworld/washingtondc/la-na-govs24feb24,1,3367976.story>


References
Alexander, L. G. (1988) Longman English Grammar, Longman, London.
Langendoen, D. Terence (1970) Essentials of English Grammar, Holt, Rinehart
and Winston, New York.
Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik (1985)
A Comprehensive Grammar of the English Language, Longman, London.


大阪大学教授 岡田伸夫
2008年3月27日