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おもしろい事実に気がつかれましたね。お考えの通り、(1)の文の分詞ruiningの意味上の主語は先行する主節の内容です。確かに今まで学校や参考書では分詞構文の分詞の意味上の主語は主節の主語であると規定してきましたが、実際には、(1)の文のように、先行する主節の内容が分詞の主語になることがあります。この用法は、主として、英米の書き手が (英米の読者を想定して書いた) 新聞や科学論文などでよく使われます。以下、証拠をいくつかあげて、「先行する主節を意味上の主語とする分詞の構文が存在する」ことを証明します。
問題の分詞構文が存在することを示す証拠をあげる前に、問題の分詞構文が存在していることを認めている教育・学習文法書 (pedagogical grammar) があることに触れておきます。Michael Swanは1980年刊行のPractical English Usage のp.455に次の(3)の例文をあげています。
(3) |
It rained for two weeks on end, completely ruining our holiday. (=... so that it completely ruined our holiday.)
(雨が2週間降り続いたので休暇が台無しになった。)
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Swanは、(3)の例文をあげるだけで、文法的な解説は何もしていませんが、分詞ruiningの意味上の主語は、「雨が2週間降り続いた」という先行する文の内容です。
また、Marcella Frankは、上記のSwanの著作が出版される8年前に、文法書の中で次のように述べています(Frank 1972, p.313)。
(4) |
Other less common relationships that may be expressed by participial phrases are:
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……………
4. Result:
He contributed a large sum to the library, (thus) making possible the purchase of some badly needed books.
(彼が図書館に大金を寄付したので、必要度の高い図書の購入が可能になった。)
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The participial phrase of result may begin with thus or thereby. Appearing in end position only, this kind of phrase refers back to the entire statement, not to a single noun. Although frequently used, such a participial phrase is not acceptable to all authorities.
Frankは例文のすぐ下の解説の中で次の(5)の四点をあげています。
(5) |
(i)
(ii)
(iii)
(iv) |
結果を表す分詞構文の先頭にthusやtherebyが出てくることがある。
結果を表す分詞構文は文末にしか現われない。
結果を表す分詞構文は先行する主節全体に言及する。
使用頻度は高いが、権威筋の中には認めない者もいる。 |
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(5)の(i)-(iv)はいずれも重要な指摘ですが、残念なことに、問題の結果を表す分詞構文が存在することを支持する文法的証拠は何もあげていません。
『現代英語教育』の1990年11月号のリーダーズ・フォーラムで、水野謙二先生が、問題の分詞構文が使われている実例をTime から8例取ってこられ、提示しておられます。ただ、水野先生は、紙幅の制約があったようで、それらの例文が「先行する主節を意味上の主語とする分詞の構文」であることを証明する議論はしておられません。
今まで教育・学習文法が「先行する主節を意味上の主語とする分詞の構文」が存在することを証拠をあげて論じることが皆無に近かったということを考慮すると、一度、問題の分詞構文が存在することを多少とも丁寧に論じる必要があると思われます。
これから問題の分詞構文の存在を示す証拠を七つばかりあげます。次の (6)-(13) の英語とその下の文法的説明をご覧ください。
(6) |
It was in such terrifying, surrealistic scenes that Northern Californians who chanced to be in the wrong place at 5:04 p.m. last Tuesday were jolted into an awful realization: a major earthquake had struck the Bay Area and its 6 million residents at rush hour. In 15 interminable seconds, an estimated 100 people had been killed and 3,000 injured, making the quake the third most lethal in U.S. history.
(先週の火曜日の午後5時4分に、運悪く、たまたま地震に見舞われた地域にいた北カリフォルニア住民が、ゆすぶられ、大地震がラッシュアワーにサンフラン シスコ湾岸地域とそこに住む600万人の住民を襲ったという恐ろしい状況を実感することになったのは、そのような恐ろしいシュールレアリスムの光景の中 だった。ずいぶん長く感じられた15秒だったが、推定100人の人が死亡し、3,000人の人が負傷し、この地震は合衆国史上3番目の大地震となった。) --Time, Monday, Oct. 30, 1989
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ここでは、何がこの地震を合衆国史上3番目の大地震にしたかが問題になっていますが、分詞makingの主語は何でしょうか。先行する主節の主語と考えれば3,000 (people) ですが、3,000人がこの地震を合衆国史上3番目の大地震にしたわけではありません。
かと言って、3,000 injured [この文は3,000 people were injuredの意味です] の前に出てくるもう一つの先行する主節の主語が分詞makingの主語と考えるのも文法的には無理です。
しかし、無理を承知でそう考えたとすると、an estimated 100 people (推定100人) が分詞makingの主語ということになります。しかし、推定100人がこの地震を合衆国史上3番目の大地震にしたわけでもありません。
分詞makingの主語が、In 15 interminable seconds, an estimated 100 people had been killed and 3,000 injured (推定100人が亡くなり、3000人が怪我をした) という先行文全体の内容であることは自明でしょう。
(7) |
... , and he will travel this week to several cities, giving him a chance to appeal for public support before live audiences.
(彼は今週いくつかの都市を訪問するが、そのことにより直接聴衆に支持を訴える機会を得るだろう。)
--The New York Times, Sunday, October 16, 1977
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この文の中のheとhimは同一人物です。主節の主語heが分詞givingの主語になることは、文法上、ありえません。もしそうであれば、givingの後のhimは再帰代名詞himselfになっているはずです。givingに続く代名詞が、himselfでなく、himであることは、givingの意味上の主語が、先行する主節の主語heではなく、主節が表している「彼が今週いくつかの都市を訪問する」という内容であることを示しています。
(8) |
Just when summer should have been coming in, it snowed last week in Colorado, punctuating several days of unseasonable 32℃ weather with enough snowfall to close three mountain highways.
(夏かと思われる暑い天候が続いていたが、先週コロラド州に雪が降り、三つの山間部のハイウェイが閉鎖され、数日間続いた32℃の天候が終わりを告げた。) --Time, June 15, 1992
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分詞punctuatingの主語は何でしょうか。先行する主節の主語のitと取ることはできません。先行する主節の主語のitは天候のitと言われることもありますが、このitは、主節では主語が顕在しなければならないという英語の統語的な制約を満たすため (だけ) に挿入されたものであり、指示対象をもっていません。分詞punctuatingの意味上の主語が、指示対象をもたないものになることはありえません。別の言い方をすると、天候のitがrain, snow, blow, thunderなどの天候の動詞以外の動詞 (e.g., punctuate) を主語とすることはありえません。
(9) |
... Moreover, further evidence in support of this assumption comes, from Coordination facts: cf.
(55) John is [A" very [A' fond of Mary] and [A' proud of her] ] .
In (55) above the sequence [fond of Mary] has undergone Ordinary Coordination with the string [proud of her], thus suggesting that both are constituents of the same type - i.e. both are A-bar constituents.
(上の(55)では[fond of Mary]という記号列が[proud of her]という記号列と等位接続されているが、そのことは、これら二つの記号列が同じタイプの記号列であることを、言いかえると、いずれもAバーのステータスをもつ構成素であることを示している。)
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Radford, Andrew (1988) Transformational Grammar: A First Course, Cambridge University Press, Cambridge. |
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(9)の文中で分詞suggestingに続くthat節中のbothはthe sequence [A' fond of Mary] と the string [A' proud of her] を指します。[A' fond of Mary] と [A' proud of her] が同じタイプの構成素 (=一種の形容詞句) であることを示唆するのは、主節の主語のthe sequence [fond of Mary] ではなく、主節の内容、つまり、the sequence [A' fond of Mary] が the string [A' proud of her] と等位接続されるという事実です。
(10) |
Once again, however, we emphasise that to call a given type of structure an island is to say that no subpart of the island can be moved off the island; this does not of course block movement of the island as a whole: hence the contrast between:
(57) |
(a) *What did you see who and _?
(b) Who and what did you see _? |
In (57)(a), part of the coordinate structure who and what has been moved, leading to ungrammatically; in (57)(b) by contrast, the whole coordinate structure has been moved - and that does not violate the constraint (56). ((57)(a)では、who and whatという等位構造の一部分がそこから (文頭に) 移動された結果、非文法的になっている。それに対して、(57)(b)では、who and what全体が移動されているので、(56)の制約に違反しない (ので非文法的にはならない)。)
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Radford, Andrew (1981) Transformational Syntax: A Student's Guide to Chomsky's Extended Standard Theory, Cambridge University Press, Cambridge. |
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分詞leading以下は何かの文が非文法的になるということを述べていますが、分詞leadingの主語は、等位構造who and whatの一部 (part of the coordinate structure who and what) ではなく、それが等位構造の中から摘出されるという事実です。(57)(a)ではwhatがwho and what という等位構造の中から外に取り出され、(57)(b)ではwhoがwho and whatという等位構造の中から外に取り出されていますが、この取り出しの操作が等位構造制約 (Coordinate Structure Constraint) と呼ばれる制約に違反するから非文法的な文である(57)(a)と(57)(b)が出てくるのです。
(11) |
Browns Interview Patriots' McDaniels
Browns interview New England offensive coordinator Josh McDaniels for coaching job
By TOM WITHERS AP Sports Writer
CLEVELAND January 2, 2009 (AP)
……………
No agreement was reached, leading to speculation that the 43-year-old Pioli wasn't interested in joining the Browns or that there was a major hang-up in negotiations.
(交渉は合意に至らなかった。その結果、43歳のピオリ (マサチューセッツ州フォックスボローに本拠地をおくアメリカンフットボールのチームであるニューイングランド・ペイトリオッツの選手) はブラウンズ (オハイオ州クリーブランドを本拠地とするアメリカンフットボールのチーム) に入ることに興味をもっていないのだろうとか、交渉に際して大きな障害があったのだろうとかの憶測が広がった。)
<http://abcnews.go.com/Sports/WireStory?id=6567646&page=2>
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分詞leadingの主語を先行する主節の主語no agreementと取ると、分詞leading以下は、No agreement led to speculation that the 43-year-old Pioli wasn't interested in joining the Browns or that there was a major hang-up in negotiations. (43歳のピオリがブラウンズに入ることに興味をもっていないとか、交渉に際して大きな障害があったとかの憶測につながる合意は何もなされなかった) というような意味になるのでしょうが、上のABC News の最初の文はそのような意味を表していません。最初の文は、「交渉が合意に至らなかった (No agreement was reached) 結果、43歳のピオリはブラウンズに入ることに興味をもっていないのだろうとか、交渉に際して大きな障害があったのだろうとかの憶測が広がった」ということを述べています。
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For McCain Supporters, A Peek at a Better World
By John Kelly
Monday, December 8, 2008; Page B03
You are no doubt familiar with the notion that there are countless alternate universes. According to this theory, a different reality is created every split second, resulting in an infinite number of outcomes. (無数の多元宇宙が存在するという考え方はよくご存じだと思います。この理論によれば、毎秒、異なる現実が創造され、それに伴い、無数の宇宙が生まれているということになります。)
<http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/07/AR2008120702504.html> |
一つの (他と異なる) 現実 (a different reality) から無限の結果 (infinite number of outcomes) が出てくるというのは論理的に奇妙です。上のThe Washington Post の記事は、一つの (他と異なる) 現実が毎秒一つずつ作られていく (a different reality is created every split second) 結果、無限の結果 (infinite number of outcomes) が生まれると述べていると考えるべきでしょう。
以上、「先行する主節を意味上の主語とする分詞の構文が存在する」ことを証明する証拠を七つあげました。Frank (1972) は、権威筋の中にはこの用法を認めない者もいると述べています (上の (5)(iv) 参照) が、本稿であげた用例はすべてれっきとした英米の新聞や著書の中で使われているものです。「先行する主節を意味上の主語とする分詞の構文」は確立している と考えるべきでしょう。本稿を読まれた皆さんは、これから英語を読まれるときに「先行する主節を意味上の主語とする分詞の構文」に出会われても正しく解釈 することができるでしょう。
References
Frank, Marcella (1972) Modern English: A Practical Reference Guide, Prentice-Hall, Englewood Cliffs, NJ.
水野謙二 (1990)「文末に現れ、前文を主語とする分詞構文」『現代英語教育』1990年11月号, p.61.
Swan, Michael (1980) Practical English Usage, Oxford University Press.
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