おもしろいことに気がつかれましたね。5文型に基づく文の分析法の限界を示す一つの事例ではないかと思います。まず、ご指摘くださった現象の背景を少し見ておきましょう。
(1)の文は、形式上は、次の(3)の文と同じで、第3文型です。
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(サルはお母さんガニに青い柿を投げつけました。) |
(1)のa millionaireがhimの補語であることは、目的語を複数形の文に変えてみるとわかります。次の(4)の文を見てください。
(4) |
Their bestsellers have made them into millionaires. |
目的語が複数形になるとintoに続く名詞も複数形になります。次の(5)の文は文法的ではありません。
(5) |
× |
Their bestsellers have made them into a millionaire. |
(4)と(5)の事実からa millionaireがhimの補語であることがわかりますが、5文型の中には、[主語+動詞+目的語+into+補語]という文型はありません。5文型に基づく分析には(1)のa millionaireがhimの補語であることを捉える部分がないのです。
では、次の(6)の文を見てください。
(6) |
His bestseller has made a millionaire out of him. |
(6)の文は、形式上は、[主語+動詞+目的語+修飾語]と見ることができますが、意味を考えると、[主語+動詞+補語+out of+目的語]とも考えられます。実際、out of himのhimのところに複数形の名詞を置くと、a millionaireの部分が複数形のmillionairesになります。次の(7)の文を見てください。
(7) |
Their bestsellers have made millionaires out of them. |
しかし、(6)の文のa millionaireは、形式上は動詞makeの目的語です。次の(8)の文とそれを受身文にした(9)の文を見てください。
(8) |
They have made a mountain out of a molehill.
(彼らはモグラ塚から山を作った。→些細なことを大袈裟に騒ぎ立てた。) |
(9) |
A mountain has been made out of a molehill. |
(8)のa mountainを受身文の主語に変えることができるということは、(少なくとも形の上では)a mountainが目的語であることを示しています。
大事なことは、5文型に縛られずに、(1)と(2)と(6)の文においてhimとa millionaireの間に主語と補語の関係(He is a millionaire.)があることを認識することです。
もう一つ大事なことがあります。次の(10)の文を見てください。
(10) |
Mason pushed Della Street into the elevator and pulled the door shut. |
(10)は次の(11)のaとbの二つの文からなっていると考えられます。
(11) |
a. |
Mason pushed Della Street into the elevator. |
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b. |
Mason pulled the door shut. |
(11)aの意味は「メーソンはデラ・ストリートをエレベーターの中に押し込んだ」で、目的語のデラ・ストリートの物理的空間における移動を表しています。文型は[主語+動詞+目的語+修飾語]の第3文型です。
それに対して(11)bの意味は「メーソンはドアを引っ張って閉めた」で、目的語のドアの状態変化を表しています。文型は[主語+動詞+目的語+補語]の第5文型です。しかし、この二つの文は、主語のメーソンが目的語のデラ・ストリートとドアに力を加えたことが原因となり、Della Street was in the elevator.とThe door was shut.という結果がもたらされたということを表しています。(11)aと(11)bの文型の違いにかかわらず、[主語+動詞+目的語]の部分が原因で、[目的語+補語]の部分が結果を表しているという共通部分があるということを認識することが大事です。
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