ご質問は、「to不定詞は未来志向、-ingは現実志向」という一般化が、to不定詞や-ingが主動詞(main verb)の目的語や文の主語として用いられるケース(名詞的用法のto不定詞と動名詞)以外のどのようなケースにあてはまるかということだと思います。
まず、「to不定詞が未来志向、-ingが現実志向」という一般化が可能なケースを復習しておきましょう。周知のように、to不定詞や-ingが動詞の目的語として用いられる場合には、to不定詞が未来志向、-ingが現実志向という傾向が見られます。「to不定詞がunrealized(未実現)、-ingがrealized(実現)」と言ってもいいでしょ う。次の(3)と(4)を見てください。
(3) I hope to see you tomorrow. =I hope that I will see you tomorrow. (I hope seeing you tomorrow. とは言いません)
(4) I enjoy playing the piano and writing poems. (I enjoy to play the piano and (to) write poems. とは言いません)
副詞的用法のto不定詞のうち目的と結果を表すものは、to不定詞が、主節の出来事に後続する出来事、主節が表す出来事の時点から見ると未来の出来事を表します。
(5) We went to Maruyama Park to see flowers.
(6) He returned after the war (only) to be told that his wife had left him. (Alexander 1988: 303)
(5)のto seeは目的を表し、(6)のto be toldは結果を表しますが、どちらもto不定詞が主節の出来事に後続します。
副詞的用法のうち、原因を表すものは、to不定詞が主節の出来事に先行しますので、上の一般化の例外となります。次の(7)と(8)を見てください。
(7) He is happy to see her again.
(8) I am sorry to hear it.
Close (1975: 75)は(7)を(9)で、(8)を(10)でパラフレーズしています。
(9) He is happy because/when he sees/has seen her again.
(10) I hear it and I am sorry.
しかし、この例外には一種の規則性が見られます。つまり、(7)のhappyや(8)のsorryと同じように使われる形容詞は次の(11)に挙げる形容詞ですが、これらはいずれも感情を表す形容詞です(Close 1975: 76)。
(11) delighted, excited, glad, honored, (un)lucky, pleased, proud, relieved, sad, surprised, thankful, thrilled, …
形容詞的用法のto不定詞も一般的には未来志向です。次の(12)と(13)を見てください。
(12) I've got some letters to write. (=I've got letters that I have to write.) (Eastwood 1994: 155)
(13) You need someone to look after you. (=You need someone who can look after you) (Close 1975: 98)
括弧内のパラフレーズの中のhave toとcanのどちらも未来志向であることに注意してください。
「to不定詞は未来志向、-ingは現実志向」という一般化は、3単現のsとは異なり、すべてのto不定詞や-ingにあてはまるわけではありません。一つの形が複数の意味を担うのは言語の普通の状態です。次の(14)-(16)を見てください。
(14) I saw Mary near the bank.
(15) the [proportional representation] campaign
(16) The lamb is too hot to eat.
(14)は鴨川の土手のそばで見かけたのか、京都銀行のそばで見かけたのかあいまいです。(15)には(17)aとbの意味があります(Radford 1988: 206)。
(17) a. the campaign [for proportional representation]
b. the campaign [against proportional representation]
(16)には(18)aとbの意味があります(http://www.coli.uni-saarland.de/courses/FLST/2009/slides/keytoambiguity-exe.pdf)。
(18) a. The living lamb is too hot to eat.(その生きた子羊は体が熱すぎて何も食べられない)
b. The lamb meat is too hot to eat.(その子羊の肉は暑すぎて私たちには食べられない)
ある種のto不定詞が未来志向以外の意味を担ったり、ある種の-ingが現実志向でない意味を担ったりすることがあっても不思議ではありません。たとえば次の(19)のto不定詞には未来志向の意味はありません。
(19) He was the first man to fly across the Atlantic. (Close 1975: 98)
(=He was the first man who flew across the Atlantic.)
さらに、like, hate, preferなどの動詞は、目的語としてto不定詞と-ingのどちらを従えることもありますが、これらの動詞がto不定詞を従える時には、to不定詞は、未来志向ではなく、習慣や動作を表します。次の(20)はClose (1975: 71-72)が挙げている例ですが、on Sundaysが使われていることから習慣を表すことは明白です。
(20) I like to go for a walk on Sundays.
しかし、like to不定詞の前に助動詞wouldが使われると、「would like to不定詞」全体が未来の動作あるいは状態(future action or state)を表します。
(21) A: Would you like to go for a walk?
B: Yes, I would like to (go for a walk).
Close (1975:72)は、これらの動詞が-ingを従える時には、習慣というより動作が強調されると述べ、次の(22)のaをbでパラフレーズしています。
(22) a. I like going for a walk.
b. I am content when I am walking.
動詞suggestは未来志向の意味を持っていますが、動名詞を目的語に取ります。Chris suggested to go.は文法的ではありません。suggestが未来志向の意味を持つことは(23)aがbのようにパラフレーズされることからもわかります。
(23) a. Chris suggested going to the cinema. (Murphy 2012: 106)
b. Chris suggested that we should go.[主にイギリス英語]
we go. [主にアメリカ英語]
動詞proposeも未来志向の意味を持ちますが、次の(24)a, bに見られるように、to不定詞と-ingのいずれも目的語に取ります。
(24) a. The government is proposing to raise the minimum school-leaving age. (LDOCE)
b. He proposed changing the name of the company. (OALD)
ところで、to不定詞が未来志向の意味を担うのはなぜでしょうか。現代英語では不定詞マーカーであるtoは、方向や目的を表す前置詞toとは別物のように考えられることも多いのですが、不定詞マーカーtoの起源をたどると前置詞toにさかのぼります。不定詞はもともと動名詞-ing同様、動詞起源の名詞であり、他の名詞同様、格(case)を表す接尾辞を持っていました。古英語(Old English)では、主格(nominative)と対格(accusative)の名詞には接尾辞-an、与格(dative)の名詞には接尾辞-enneが付いていました。方向や目的を表す前置詞toが接尾辞-enneの付いた与格名詞を従えたものが、現代英語のto不定詞の起源です(中尾・児馬, 1990: 179)。次の(25)を見てください。
(25) hīe cōmmon tō mē tō wyrcenne … (=they came to me to work …)
(25)では動詞wyrcan (=work)が不定詞の与格形wyrcenneとなり、その直前に前置詞toが現れています。現代英語で不定詞マーカーtoが未来志向であるのは、方向・目的を表す前置詞to由来であるためです。
上の(5)では方向・目的地を表すto Maruyama Parkと目的を表すto see flowersがいっしょに使われています。空間概念の方向・目的地を表す前置詞toが目的となる出来事を導く不定詞マーカーtoに拡張されていることがよくわかります。
動詞lookを使ったイディオムを二つ見てみましょう。look forward toのtoは前置詞であり、名詞(動名詞-ingを含む)を従えます。次の(26)を見てください。
(26) a. I look forward to next weekend.
b. I look forward to seeing you soon.
(26)bのseeingは動名詞で、直前のtoは方向・目的地を導く前置詞です。seeing you soonを目的地と見なし、「前方にある目的地の方を見る」という構文を使って、「(将来)あなたに会えるのを楽しみにしている、待ち望んでいる」という意味を表しています。
一方、be looking toというイディオムは、toの後ろに不定詞を従え、「~しようとする、~することを期する」という意味を表します。次の(27)を見てください。
(27) We're looking to buy a new car early next year. (LDOCE)
be lookingに続くtoは不定詞マーカーのtoです。
次に、「to不定詞は未来志向、-ingは現実志向」という原則が、上の(1)の「名詞+to不定詞」にもあてはまるかどうかについて考えてみましょう。(1)aのwishは名詞ですが、これは動詞wishからの派生形です。元の形と同形のままで品詞が変わる現象は品詞転換(conversion)とかゼロ派生(zero derivation)とか呼ばれています。動詞wishから派生した名詞のwishは、動詞wishが持っている音韻特性(/wíʃ/)と、未来志向の意味特徴と、未来志向のto不定詞を従える統語特徴を相続します。同じことは(1)bのdecision、(1)cのdesire、(1)dのattemptについても言えます。
(1)eのreadinessは、形容詞readyに派生接尾辞-nessが付いてできた名詞です。形容詞readyはfully prepared for what you are going to do (OALD)という意味です。… what you are going to doから未来志向であることがわかります。名詞readinessは元の形容詞readyが持つ音韻特性と未来志向の意味特徴と未来志向のto不定詞を従える統語特徴を相続します。(1)fのwillingness、(1)gのreluctance、(1)hのabilityについても同じです。
(1)iのcourageには元になっている名詞や形容詞はありません。courageousはcourageに派生接尾辞-ousが付いていることから分かるように、courageからの派生形容詞です。しかし、courageの意味を考えてみると、未来志向のto不定詞を従えるのも当然と思われます。OALDはcourageをthe ability to do something dangerous, or to face pain or opposition, without showing fearと定義しています。courageが、名詞ability同様、未来志向のto不定詞を従えるのも予想範囲内の現象です。
(1)jの名詞effortも元になる動詞や形容詞がありません。LDOCEは名詞effortをan attempt to do something, especially when this involves a lot of hard work or determinationと定義しています。未来志向のto不定詞を従える動詞attemptからの派生名詞attemptが未来志向のto不定詞を従える((1)dを見てください)のと同様に、動詞attemptの意味を含む名詞effortが未来志向のto不定詞を従えるのも不思議ではないでしょう。
次に、上の(2)の「名詞+to+動名詞」を見てみましょう。(2)aのapproachは他動詞approachから派生した名詞です。他動詞approachは、次の(28)に見られるように、前置詞を従えずに、直接、名詞を従えます。
(28) They approached the town.
しかし、名詞approachになると、their approach of the townではなく、their approach to the townとなります。動詞approachが他動詞であるにもかかわらず、名詞approachが前置詞toを従えるのは、動詞approachがcome near to somebody/something in distance or time (OALD)という空間移動の意味を持つからだと思われます。
次の(29)のaとbでは、wayとstepsが空間移動の意味を表し、前置詞toが目的地を表します。
(29) a. The diplomat was abducted on his way to the airport. (LDOCE)
b. We walked down some stone steps to the beach. (OALD)
(2)a-cでは、前置詞toに続くgetting the life you want, becoming a movie star, becoming a morning personという未来の出来事・状態が目的地として扱われています。
名詞wayが「方法・仕方」を表す時には、to不定詞と-ingのいずれを従えることもできます。次の(30)のaとbを見てください。
(30) a. Hiring a car was the best way to get from A to B. (LDOCE)
b. Evening classes are one way of meeting new people. (LDOCE)
名詞key(カギ)は「Xのカギ」という時にthe key of Xではなく、the key to Xと言います(LDOCE)。たとえば「ガレージのカギ」はthe key of the garageではなく、the key to the garageと言います。keyを「成功などに至る秘訣」という意味で使う時もthe key of Xではなく、the key to Xと言います。たとえば「成功へのカギ」はthe key of successではなく、the key to successと言います。(2)dではimproving your healthが達成目標を表しています。
(2)eのthe secretはa particular way of achieving a good result, that is the best or only way (LDOCE) という意味です。(2)bのhis wayの後ろに前置詞toが来るのと同様に、the secretの後ろにも前置詞toが来ます。
引用文献
Alexander, L. G. (1988) Longman English Grammar, Longman, London.
Close, R. A. (1975) A Reference Grammar for Students of English, Longman, Harlow, Essex.
Close, R. A. (1981) English as a Foreign Language: Its Constant Grammatical Problems, 3rd ed., George Allen & Unwin, London.
Eastwood, John (1994) Oxford Guide to English Grammar, Oxford University Press.
Murphy, Raymond (2012) English Grammar in Use: A Self-Study Reference and Practice Book for Intermediate Students, 4th ed., Cambridge University Press, Cambridge.
中尾俊夫・児馬修(編著)(1990)『歴史的にさぐる現代の英文法』大修館書店.
Radford, Andrew (1988) Transformational Grammar: A First Course, Cambridge University Press, Cambridge.
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