英語研究室

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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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8

He employed a watchman he knew was addicted to drink. のwas addicted to drinkは前の部分とどのようにつながるのですか。

Q.8 E. S. Gardnerの"The Case of the Irate Witness"という短編の探偵小説に次の(1)の英語がありました。
 
(1) He installed a burglar alarm, and, naturally, knew how to circumvent it. He employed a watchman he knew was addicted to drink.
 
「彼 は(自分で)盗難防止警報機を設置したので,当然ながら,それが作動するのを回避する方法を知っていた。彼は自分がよく知っている警備員を雇って」という ところまでは読み解けたのですが,was addicted to drinkの部分が前とつながりません。この警備員がアルコール依存症だったと言っていると思うのですが,構文が分析できないのです。二重関係節構文で, 本来wasの前にあるべき関係代名詞whoが脱落しているのでしょうか。
 
A.8 なるほど。「アルコール依存症の知り合いの警備員を雇った」という意味のa watchman (who) he knew who was addicted to drinkではないかということですね。「しかし,そう考えると主格の関係代名詞whoを省略することになる,それは文法的に許されないのではないか」と悩まれたのでしょう。

まず,先に答を言っておきます。問題の文は次の(2)のように解釈すべきものです。
 
(2) He employed a watchman who he knew was addicted to drink.
 
(2)のa watchman who he knew was addicted to drinkの部分は,関係代名詞whoで始まる関係節を含む名詞句ですが,whoがwasの前ではなく,heの前にあることに気をつけてください。
もう少しわかりやすくするために,(2)の文を次の(3)に見られるように,2つの文に分解してみましょう。
 
(3) He employed a watchman + He knew the watchman was addicted to drink
 
(3)の前半の文のwatchmanと同じ人を指す後半の文のwatchmanをwhoに変えて,後半の文の文頭に回します。次の(4)参照。
 
(4) ... a watchman He knew the watchman was addicted to drink
 
その次に,who he knew was addicted to drink全体を前半の文のwatchmanの直後に動かします。そうしてできたのが(2)です。最後に,(2)のheの前の関係代名詞whoを省略すると(1)の問題の文ができます。この文の意味は次の(5)です。
 
(5) 彼はアルコール依存症であることを知っている警備員を雇った。
(→彼はある警備員を,その人がアルコール依存症だと知っていて雇った。)
 
問題の文が「彼がこの警備員と知り合いだった」と言っているわけではないことに注意してください。

学校では(3)のHe knew the watchman was addicted to drinkのような複文を関係節にするケースはあまり扱っていないのですが,それは教育あるいは学習を考えた恣意的な制限であると考えたらいいでしょう。

質問してくださった方は私の分析に疑問をもたれるかもしれません。結局は,私の分析も(2)のwho (これは動詞wasの主語ですから主格です) の省略に依存した分析であり,この省略は次の(6)の規則に違反するからです。
(6) 主格の関係代名詞は省略することができない。
確かに学校では上の(6)と次の(7)の規則をセットにして教えますが,この2つの規則はどちらも正しくありません。このことについては拙著『英語教育と英文法の接点』(美誠社)のpp.43-44をご覧ください。
(7) 目的格の関係代名詞は省略することができる。
 
正しいのは次の(8)です。
 
(8) 先行詞と主語(もっと正確に言うと,主部)にじかにはさまれた関係代名詞は省略することができる。
アメリカ人作家の作品の中から,主格の関係代名詞が省略されている例をいくつか選びだし,次の(9)-(11)にあげてみましょう。文中の _ は省略されている関係代名詞の位置を示します。
(9) The kid _ you just decided isn't guilty was seen ramming this thing into his father.
----Reginald Rose, Twelve Angry Men

(みなさんが,たった今,有罪ではないと判断されたこどもは,父親にこれ(ナイフ----著者注)を突き刺すのを目撃されているんです。)

 

(10) If I'm making a telephone call to a man _ I have learned is thirty-six or thirty-seven, I will call that man "Mr." on the phone.
----Bob Greene, Cheeseburgers

(もし36歳か37歳だとわかった人に電話をしていれば,その人を"Mr."をつけて呼ぶでしょう。)

 

(11) He was being faithful to things _ he hadn't even known existed inside himself anymore.
----Barry Reed, The Verdict
(彼は,まだ自分の中に残っているとは知りもしなかったものに忠実であろうとしていた。)

 

冒頭で,(1)のa watchman he knew was addicted to drink.の部分は二重関係節構文ではないと言いましたが,そのことは(9)(10)を見ればすぐわかります。(9)のdecideは名詞kidを目的語にとる動詞ではありませんし,(10)のlearnは名詞manを目的語にとる動詞ではないからです。(9)のdecideはthe kid isn't guiltyという文を,(10)のlearnはthe man is thirty-six or thirty-sevenという文をそれぞれ目的語にとっています。

ご質問くださった方が(8)の規則を学習しておられたら,(1)の後半の文が,a watchman (who) he knew who was addicted to drinkではなく,(2)から派生されたととることができたのではないでしょうか。学校文法にはまだまだ改善の余地がありそうです。
 
大阪大学教授 岡田伸夫